・・・しかも熱に浮かされた自分にはその空虚が充溢に見えるのである。 大業にし過ぎるということは若い者にあり勝ちの欠点かも知れない。重大事を重大事として扱うのに不思議はないと思うから。しかし引きしめて控え目に、ただ核実のみを絞り出す事は、嘘を書・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・彼らの内には、生を高めようとする熱欲も、高まった生の沸騰も、力の横溢もなんにもなく、ただ創作しようとする欲望と熱心だけがある、内部の充溢を投与しようとするのでなく、ただ投与という行為だけに執着しているのである。従って彼らの表現欲は内生が沈滞・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・それゆえに私は真の勇気を怯懦と感じ、真の充溢を貧弱と感じた。それゆえに私は腐臭を帯びた人間を価値高きものとして尊敬した。ああ。何という自分だろう。私は何ものをも愛しないで、ただ冷ややかにただ無責任にすべてを味わって通ろうとした。そうして彼ら・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫