・・・というだけではすまさぬ複雑な部落民の先入観によって迎えられていることは明らかである。 村の社での演説の失敗は、これら数多の必要な情勢分析の不確実さから生じた当然の帰結であった。彼が戦闘的唯物論者らしく部落内の現象の分析綜合をなし得たら、・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
第一、相手の性行を単時間に、而して何等かの先入的憧憬又は羞恥を持った人が、平生に観察し得るだけの素養と直覚とを持ているか如何か、ということが大きな根本的な問題と存じます。第二、若し其れだけの心の力がある人なら、相手の表情・・・ 宮本百合子 「結婚相手の性行を知る最善の方法」
・・・その先入の感情から脱けられなければならないと思う。 ほんとうに立派な子供のための本をかける女性というものの、心の内部は確りとしたものであって、その精神の一面では、今日小説を書いている幾人かの婦人作家が持っている文学の世界の意味をも洞察し・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・小鳥に対して人間は、いつも楽しげな、軽快なものという先入主を以て対している。それが気の無さそうな風をして、ひっそり足をすくめていると、非常に四辺をわびしく思うのであろう。 始め、我々が小鳥を飼ったのには、別に大した理由もなかった。去年の・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・過去の文学において、日本のみならずヨーロッパでも、自然は美なるもの、無垢なものとしての先入観によって、到って観念化されて扱われて来ている。ヨーロッパの自然は、ギリシャ時代、ルネッサンスにあってはアポロだのジュピターだのという伝説の神々の仮名・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ ロンブロゾーは、警察官の先入観念に一つの犯罪型という骨相上の分類を加えてやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・社会の歴史と人間性とを更に客観的な新たな方向と価値で表現すべき階級の作家、特にその人々が実践に参加していたということで先入的な期待を読者に抱かせる習しをもっている作家が、現代の若い三十代の寧ろ否定的な要素を合理化するような客観的効果を持つ作・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・しかし、彼等が必死の努力で日々を過した五年、その五年をゴーリキイはイタリーにいたということは、イタリーという土地が伝統的にわれわれの心に反映させる一種の遊園地めいた先入感の関係もあって、何だかゴーリキイに対して、うちのものではあるが久しく会・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ 先の家のように、どうせ仮の住居であると云う、先入主を持って居る処は、決して、人の心によい影響は与えない。 引越しの朝八時過、自分は、当然、行くべき処へ戻るとでも云うような、安らかに楽しい心持で、小さい包と一緒に俥に乗った。 や・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・まして、昨今の日本文化輸出熱は、その本質において、残念ながら多くは外国の人々の日本に関する不十分な先入感、お蝶さん的趣味に追随した程度のものであるから、日本文化と称するものの輸出熱が嵩じれば嵩じる程、一層現実日本の挙止が日常に与えつつある印・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫