・・・利休以外にも英俊は存在したが、少は差があっても、皆大体においては利休と相呼応し相追随した人であって、利休は衆星の中に月の如く輝き、群魚を率いる先頭魚となって悠然としていたのである。秀吉が利休を寵用したのはさすが秀吉である。足利氏の時にも相阿・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・一隊は三人で、先頭の看守がガチャン/\と扉を開けてゆくと、次の部長が独房の中を覗きこんで、点検簿と引き合せて、「六十三番」 と呼ぶ。 殿りの看守がそれをガチャン/\閉めて行く。 七時半になると「ごはんの用――意!」と、向う端・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・窪田さんや条理の分った山崎のお母さんたちが、一生ケン命に、だまされるどころか、丁度その反対で、上田や大川たちの搾取の生活を解放するために、伊藤や山崎などが先頭に立って、一身を犠牲にしてやっているのだと云ってきかせても、一向にきゝ入れないのだ・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・いっそトラックを一周おくれて、先頭になりましょうか。ひとつ御指導を得て、恋愛の稽古もはじめたい。歴史を勉強しましょうか。哲学とやらは如何。語学は。 告白すると、私は、ショパンの憂鬱な蒼白い顔に芸術の正体を感じていました。もっと、やけくそ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・の言葉に対して彼は、「語学競技者」は必ずしも「人間」の先頭に立つものではない、強い性格者であり認識の促進者たるべき人の多面性は語学知識の広い事ではなくて、むしろそんなものの記憶のために偏頗に頭脳を使わないで、頭の中を開放しておく事にある、と・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そうして遠いロシアの新映画の先頭に立つ豪傑の慧眼によって掘り出され利用されて行くのを指をくわえて茫然としていなければならないのである。しかも、ロシア人にほんとうに日本の俳諧が了解されようとは考えにくいのに、それだのにそのロシア人の目を一度通・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・前夜の夕刊に青森県大鰐の婚礼の奇風を紹介した写真があって、それに紋付き羽織袴の男装をした婦人が酒樽に付き添って嫁入り行列の先頭に立っている珍妙な姿が写っている。これが自分の和服礼装に変相し、婚礼が法事に翻訳されたのかもしれない。紫色の服を着・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・粥釣りに来るおおぜいの中でも勇敢なのは堂々と先頭に立ってやって来るが、気の弱いのは先頭の背後に隠れるようにして袋をさし出すのもある。しかしなにしろおもに近所の人たちであるから、たとえ女の着物を着たり、羽織をさかさまに着たりしていてもおおよそ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そして先頭に進んで行き、敵の守備兵が固めている、玄武門に近づいて行った。彼の受けた命令は、その玄武門に火薬を装置し、爆発の点火をすることだった。だが彼の作業を終った時に、重吉の勇気は百倍した。彼は大胆不敵になり、無謀にもただ一人、門を乗り越・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ 墓地の入り口まで先頭の人影が来ると、吹き消したように消えてしまった。安岡は同時に路面へ倒れた。 墓地の松林の間には、白い旗や提灯が、巻かれもしないでブラッと下がっていた。新しいのや中古の卒塔婆などが、長い病人の臨終を思わせるように・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
出典:青空文庫