・・・江の浦口野の入海へ漾った、漂流物がありましてな、一頃はえらい騒ぎでございましたよ。浜方で拾った。それが――困りましたな――これもお話の中にありましたが、大な青竹の三尺余のずんどです。 一体こうした僻地で、これが源氏の畠でなければ、さしず・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・いずれそりゃ、田鼠化為鶉、雀入海中為蛤、とあってな、召つかいから奥方になる。――老人田舎もののしょうがには、山の芋を穿って鰻とする法を飲込んでいるて。拙者、足軽ではござれども、(真面目松本の藩士、士族でえす。刀に掛けても、追つけ表向の奥方に・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・其時人々の前には、眼界遙かに穏やかな入海と、櫛比した町々の屋根が展開される。 今籠町の黄檗宗崇福寺へ行って、唐門前の石欄から始めて夕暮の市を俯瞰した時、その心理的効果がはっきり感じられて面白かった。 崇福寺は由緒も深く、建築も特別保・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
出典:青空文庫