・・・従って受働的習慣と能働的習慣との区別を論じた有名な最初の論文などは、近頃ティスセランの出版の全集が出るまでは読むことができなかった。能働的習慣と受働的習慣との区別の如きは面白い洞察と思う。コンディヤックの感覚論から出でて、その立場を守りなが・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・自家の全集の序である。これは少々難物だ。 余計な謙遜はしたくない。骨を折って自家の占め得た現代文壇における地位だけは、婉曲にほのめかして置きたい。ただしほのめかすだけである。傲慢に見えてはならない。 ピエエル・オオビュルナンは満足ら・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・紅葉全集の端本。馬琴の「白縫物語」、森鴎外の「埋木」と「舞姫」「即興詩人」などの合本になった、水泡集と云ったと思うエビ茶色のローズの厚い本。『太陽』の増刊号。これらの雑誌や本は、はじめさし絵から、子供であったわたしの生活に入って来ている。く・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
マルクス=エンゲルス全集というと、赤茶色クロース表紙の書籍が、私たちの目にある。この本のために、これまでの日本の読者は、どんなに愛情を経験し、また苦労をなめてきただろう。階級のある社会に生活をいとなんでいる以上、そのなかで・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・漱石全集を読み直していた時だったので、明治時代のインテリゲンツィアが持っていた錯雑性という点からもいろいろ考えられた。 小堀杏奴さんの「晩年の父」は、「安井夫人」から受けた鴎外についての私の印象の裏づけをして、いろいろさまざまの興味を与・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 本年のはじめ、私が特別な非人間的生活を強いられていた間に、漱石全集をよみました。寒い寒い板のような空気の中で、手は懐手が出来るが耳は懐へしまえないから霜やけをかゆがりながら、その日記の部分をみていたら、私にとってまことに興味ある一文に・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・手前の方に斜に置いてある本を取って見ると、Beaudelaire が全集のうちの一巻であった。 別に読もうという気もなしに、最初のペエジを開けて見ると、おもちゃの形而上学という論文がある。何を書いているかと思って、ふいと読み出した。・・・ 森鴎外 「花子」
今度岡倉一雄氏の編輯で『岡倉天心全集』が出始めた。第一巻は英文で発表せられた『東洋の理想』及び『日本の覚醒』の訳文を載せている。第二巻は『東洋に対する鑑識の性質と価値』その他の諸篇、第三巻は『茶の書』を含むはずであるという。岡倉先生の・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
キェルケゴオルのドイツ訳全集は一九〇九年から一九一四年へかけて出版せられた。その以前にも前世紀の末八〇年代から九〇年代へかけて彼の著書はかなり翻訳せられたが、宗教的著作のほかは、かなり厳密を欠いたものであった。 彼に関する研究は、・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・と言いながら樗牛全集五巻を世人に遺したのはこれがためである。たとえ有能なる影響を吾人の心霊に与えずとも少なくとも彼の霊的努力は彼がばかにしていた「小児輩」にかなりの勢力がある。この霊的執着の半面には物質を超越せんがために強烈なる煩悶があった・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫