・・・ 五つか六つ売れると、水もそれだけ減らしていいから、ウンと荷が軽くなる。気持もはずんでくる。ガンばってみんな売ってゆこうという気になる。「こんちはァ、こんにゃく屋ですが、御用はありませんか」 一二度買ってくれた家はおぼえておいて・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・もう六つ、日の出を見れば、夜鴉の栖を根から海へ蹴落す役目があるわ。日の永い国へ渡ったら主の顔色が善くなろうと思うての親切からじゃ。ワハハハハ」とシワルドは傍若無人に笑う。「鳴かぬ烏の闇に滅り込むまでは……」と六尺一寸の身をのして胸板を拊・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・しかるに何ぞ図らん、今年の一月、余は漸く六つばかりになりたる己が次女を死なせて、かえって君より慰めらるる身となった。 今年の春は、十年余も足帝都を踏まなかった余が、思いがけなくも或用事のために、東京に出るようになった、着くや否や東圃君の・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・彼は、その五つ六つの新聞から一つの記事を拾い出した。「フン、棍棒強盗としてあるな。どれにも棍棒としてある。だが、汽車にまで棒切れを持ち込みゃしないぜ、附近の山林に潜んだ形跡がある、か。ヘッヘッ、消防組、青年団、警官隊総出には、兎共は迷惑・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・それは六つも年上の若後家の前だからでございましたのね。六つ違いますわねえ。おまけに男のかたが十七で、高等学校をお出になったばかりで、後家はもう二十三になっているのですから、その六つが大した懸隔になったのも無理はございませんね。そんな風にして・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・大きな梨ならば六つか七つ、樽柿ならば七つか八つ、蜜柑ならば十五か二十位食うのが常習であった。田舎へ行脚に出掛けた時なども、普通の旅籠の外に酒一本も飲まぬから金はいらぬはずであるが、時々路傍の茶店に休んで、梨や柿をくうのが僻であるから、存外に・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云いながら走ってついて来るのでした。 そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。「ここへ畑起してもいいかあ。」「いいぞお。」森が一斉にこたえました。 み・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・となりの車室の子供づれの細君が二つ買ってソーニャという六つばかりの姉娘の腕に一つ、新しい世界というインターナショナル抜スイのような名をもった賢くない三つの男の子の腕に一つ通してやっている。 耳が痛い位寒い。食堂でよく会う黒人党員がいつも・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・さて棺のまわりに糠粃を盛りたる俵六つ或は八つを竪に立掛け、火を焚付く。俵の数は屍の大小により殊なるなり。初薪のみにて焚きしときは、むら焼けになることありて、火箸などにてかきまぜたりしが、糠粃を用いそめてより、屍の燃ゆるにつれて、こぼれこみて・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・初めて私がランプを見たのは、六つの時、雪の降る夜、紫色の縮緬のお高祖頭巾を冠った母につれられて、東京から伊賀の山中の柘植という田舎町へ帰ったときであった。そこは伯母の家で、竹筒を立てた先端に、ニッケル製の油壺を置いたランプが数台部屋の隅に並・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫