・・・今の世に云う写生文家というものの文章はいかなる事をかいても皆共有の点を有して、他人のそれとは截然と区別のできるような特色を帯びている。するとこれらの団体はその特色の共有なる点において、同じ立場に根拠地を構えていると云うてよろしい。もう一遍大・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・ けれ共有難い事には、此の一二年同じ動くにしても、或る一点の支点だけは不動に確立して居る事を信じられる様になったのは嬉しい。 只それ丈で、どんなに動かされても堪えられ幾分ずつなりとも育てられては行きますけれどまだまだ私の心は若すぎる・・・ 宮本百合子 「動かされないと云う事」
・・・ 認識の範囲の狭さ、個性の独自性の乏しさ、妥協的で easy-going であると云うような忠言は、批評の一種の共有性であろう。 或る人は、そんな事はあるものか、男の人は負け惜みが強いからそんな事を云い度いのだと、云うかもしれない。・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・そういう農場では、生産、利潤の分配すべてを共有に、共産主義的にやって行く農場経営の形だ。 そのコンムーナに小学校がある。数本の白樺と檜の樹にかこまれた丸太づくりの小さい学校だ。が、そこに一人の精力的な教師が働いている。一九一七年までその・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・集団農場へ入ると、赤坊もやっぱり牛みたいに共有されるって本当かね?」 ドッと云う満場の笑い。「なおいいじゃねえか!」と云う声がした。又それで笑う。 ――ソラ! 諸君はそうやって笑う。だがそれは一部に今なお信ずべからざる事実としてある・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・文化・文学が人民の社会生活の共有財であり、その創造は一つの文化生産部面であるというしっかりした認識こそ、人民の民主生活の実際の足がかり、ファクターではないでしょうか。文化を人民の当然の共有財と理解してその民主的効用を求めないなら、いますべて・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・どうかして気をまぎらせたいと僧を呼んでお経をよませたり自分でよんだりして居られたけれ共有難い御経の文句も若君の心はなぐさめる事が出来なかった。さっきまでお経をよんで居た声がパッタリ止んでから今までよっぽど立つけれ共身じろぎする様子さえもない・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・を生んだものと、そのものとは如何なる内的関係を共有しているのでございましょう。これが如何なるものによって解決され進展し、拡大され、完成に到るかということ、これこそ最後のもので、私が饒舌をおさめ、謹んで貴女の踏まれる一歩一歩を理解して行こうと・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・と同時に、一般が、彼等生存の理想、倫理感等によって認めた肯定の範囲に於ては、一人一人が、各々の負うべき責任と義務とを確信しての自由、独立を共有する。家庭生活というものが部族に隷属した時代が去り、一人一人の希望、趣向、責任によって経営されるよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・日本の石器時代の氏族社会は、まだ総ての生産手段とその収穫とを共有していた時代で、氏族の中では男も女も平等の権利を持っていた。つまり男も女も等しい選挙権と被選挙権とを持っていたし、女の酋長というものも、文献の中に多勢現われている。この時代は母・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫