・・・このジョコンダの微笑は、ながく見つめていると人のこころをもの狂わしくするような内面の緊張した情感をたたえている。じっとおさえて、その体とともにレオナルドとの関係をも動かそうとしなかった貴族階級の女性の激しい思いを溢れさせている。この人間性の・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 農民作家たちは、いつの間にか、こういう細々した農村生活の外部的、或は内面の特別性を、固定したものとして扱い、過重評価しはじめた。「ロシアの土」の偉大さを、社会主義社会建設のために、階級的方向にどう利用して行くべきかを作品の中で指示・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・前半におけるモスクワと伸子との相互関係は、伸子がまだそこにある社会生活を総括して政治的なその根元からつかめず、次々に接触する事物からの感銘や批判を摂取して目に見えず内面変革にすすんでゆく、その段階においてとらえられているのである。拙劣に扱わ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 外面の卑下と内面の優越をもって「であります」調の私的評論が流行したのも一九四九年の一現象であった。個人としてそれらの人々がどのように歴史の現実をうけとり、それを表現し、そのことによって、進んでゆく歴史と自分との関係を、おのずから客観の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・幼馴染で、謙遜で、スーザンの内面的な強烈さ、優秀さを十分評価しているマークとの結婚は、一人の男の子と女の子とを二人の間にもたらして、終りを告げた。マークはチフスで急に死んだのであった。しかし、マークはただチフスで命をおとしたのだろうか。医者・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ 中野さんが全力をつくして対象に引組むことでそういう部分を内面的にも発展させ切ってしまうための本気な努力を益々継続することを心から期待してやまない。 これらは作家の発展の途についての感想であるが、私はこの作品を読んで更にもう一つのこ・・・ 宮本百合子 「鼓舞さるべき仕事」
・・・四 私は道徳をただ内面的の意義についてのみ見ようとしています。そうして他人の不道徳を罵る時にはその内面的の穢なさを指摘しようとします。 しかし自分の心はどれほど清らかになっているか。恥ずべき行為をしないと自信している私は・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・彼女が美しい物の話をする時には内面的に顔が輝いて来る。暗い蒼白い額はセンシチヴな皺をつくる。ほとんど色のない小さい薄い唇は半ば優しく半ば皮肉に、自分があまり喜悦に心を奪われているのを笑うような表情をする。そして微かに震える。やがて自由に華や・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・この内面の豊富な光景を深く理解した人の見方が、彼らの見方よりもいかに多くの高い価値を持っているか、それを血によって感じてもらいたいのである。彼らは多くの心境を理解し得ないがゆえに、排斥する。しかし理解すればとても頭があがらなくなるようなもの・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・彼らは享楽のほかに生活を持っていない。彼らはともに全身をもって、全生活をもって享楽しようとする。彼らは内面外面のあらゆる道徳を振り捨てて人の恐れる「底」に沈淪する事を喜ぶ。聖人が悪とする所は彼らには善である。しかもそれは悪と呼ばれるゆえに一・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫