・・・等は金儲けのためには義理人情もない云々と書き立て、――それに比べると川那子丹造鑑製の薬は……と、ごたくを並べ、甚しきは医者に鬼の如き角を生やした諷刺画まで掲載し、なお、飽き足らずに「売薬業者は嘘つきの凝結」などと、同業者にまで八つ当った……・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・この机辺のどろどろの洪水を、たたきころして凝結させ、千代紙細工のように切り張りして、そうして、ひとつの文章に仕立てあげるのが、これまでの私の手段であった。けれども、きょうは、この書斎一ぱいのはんらんを、はんらんのままに掬いとって、もやもや写・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・ しかし、私の思いは、ただ一点に向って凝結されていたのである。炬燵の上にはお料理のお膳が載せられてある。そのお膳の一隅に、雀焼きの皿がある。私はその雀焼きが食いたくてならぬのだ。頃しも季節は大寒である。大寒の雀の肉には、こってりと油が乗・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・鼓でも打ち鳴らしているような、おどろおどろした物音が、絶え間なく響いて来て、私には、その恐しい物音が、なんであるか、わからず、ほんとうにもう自分が狂ってしまったのではないか、と思い、そのまま、からだが凝結して立ちすくみ、突然わあっ! と大声・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・この廊下一面の凝霜の少なくも一部分は、隊員四十余名の口から吐きだされた水蒸気がこの廊下へ拡散して来て徐々に凝結したものではないかと想像してみた。そう想像することによって隊員の忍苦の長い時間的経過を味わうことができる。 バードが極飛行から・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 尤も喫煙家の製造する煙草の煙はただ空中に散らばるだけで大概あまり役には立たないようであるが、あるいは空中高く昇って雨滴凝結の心核にはなるかもしれない。午前に本郷で吸った煙草の煙の数億万の粒子のうちの一つくらいは、午後に日比谷で逢った驟・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・マデレーヌの近くの一流のカフェーで飲んだコーヒーのしずくが凝結して茶わんと皿とを吸い着けてしまって、いっしょに持ち上げられたのに驚いた記憶もある。 西洋から帰ってからは、日曜に銀座の風月へよくコーヒーを飲みに出かけた。当時ほかにコーヒー・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・雨氷の成因については岡田博士もかつてその研究の結果を発表された通り、やはり上層の雨滴が下層の寒気に逢うて氷点下に冷却され、しかも凝結の機縁を得ないために液状で落下し、物体に触れると同時に先ず一部が氷結し、あとは徐々に氷結するのである。 ・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・ たとえば、これもやはり私の洗面台の問題の一つであるが、前夜にたてた風呂の蒸気が室にこもっているところへ、夜間外気が冷えるのと戸外への輻射とのために、窓のガラスに一面に水滴を凝結させる。冬の酷寒には水滴の代わりに美しい羽毛状の氷の結晶模・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・それからまたガラス窓などに水蒸気が凝結して露を結んでいるのが、だんだん露の生長するにつれてガラス面に沿うて落下し始める。その際に露の流れが次第に合流して樹枝状の模様を作る。この場合は前の多くの場合とは反対に枝の末端のほうから樹幹のほうへ事が・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
出典:青空文庫