・・・空想は限りなくひろがるけれども、しかし、現実は案外たやすく処理できる小さい問題に過ぎないのだ。この世の中は、決して美しいところではないけれども、しかし、そんな無限に醜悪なところではない。おそろしいのは、空想の世界だ、とまあ言ったのですが、ど・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・こういう事に馴れ切っているらしい監督はきわめて愛想よく事件を処理した。「決して御客様方の人格を疑うような訳ではありませんが、これも職務で御座いますからどうか悪しからず御勘弁を願います」と云う。こう云われてみると私はますます弱ってしまうのであ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ながら、とにかく口の先で流麗に雄弁なわび言を言って、頭をぴょこぴょこ下げて、そうした給仕女をしかって見せるところであろうが、時代の一転した一九三五年の給仕監督はきわめて事務的に冷静に米国ふうに事がらを処理していた。媚びず怒らず詐らず、しかも・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 私はこの蜂の巣を見付けたい、そしてこの珍奇な虫の団子がそこでいかに処理されるかを知りたいものだと思っている。 虫の行為はやはり虫の行為であって、人間とは関係はない事である。人として虫に劣るべけんやというような結論は今日では全く・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・自分の高等学校在学中に初めて奉公に来て、当時から病弱であった母を助けて一家の庶務を処理した。自分が父の没後郷里の家をたたんでこの地へ引っ越す際に彼女はその郷里の海浜の村へ帰って行った。彼女の家を立てるべき弟は日露戦争で戦死したために彼女はほ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・このような場合を適当に処理すべき理論はもちろんのこと、その理論の構成に基礎となるべき概念すらもまだ全然発達していないのであるから、今のところでは物理学者はこれらをどうしてよいかわからない。従って問題にしようともしなければ、また見ても見ないつ・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・渾沌とした問題を処理する第一着手は先ず大きいところに眼を着けて要点を攫むにあるので、いわゆる第一次の近似である。しかし学者が第一次の近似を求めて真理の曙光を認めた時に、世人はただちに枝葉の問題を並べ立てて抗議を申込む。例えば天気予報などもあ・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・そうしてそのような所知者の世界には時と空間に関する整合が存在し、普遍にして必然な因果関係が存在するという事を前提として、そういう型にはまるようにこの世界を処理して行く。そういう試みがある程度まで成効した結果が今日の科学である。 従来哲学・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・それで多くの場合にはこのようなものを考えなくて却って事柄は簡単に明瞭に処理されるのである。もし量子的の考えを用いずしてすべての現象が矛盾なしに説明され得るのであったら、何を苦しんで殊更に複雑な統計的の理論を担ぎ出す必要があるであろうか。数学・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・親しかった人々は追悼会や遺作展覧会を開いてくれ、またいろいろの余儀ない故障のために親戚のものだれ一人片付けに行く事のできなかった遺物の処理までも遺憾なく果たしてくれた。そしてこの処理の中に一通りならぬ濃まやかな心づかいのこもっているのを感じ・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
出典:青空文庫