・・・ けれども当人の半三郎だけは復活祝賀会へ出席した時さえ、少しも浮いた顔を見せなかった。見せなかったのも勿論、不思議ではない。彼の脚は復活以来いつの間にか馬の脚に変っていたのである。指の代りに蹄のついた栗毛の馬の脚に変っていたのである。彼・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・粟野さんは今日も煙草の缶、灰皿、出席簿、万年糊などの整然と並んだ机の前に、パイプの煙を靡かせたまま、悠々とモリス・ルブランの探偵小説を読み耽っている。が、保吉の来たのを見ると、教科書の質問とでも思ったのか、探偵小説をとざした後、静かに彼の顔・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・ が、読本と出席簿とを抱えた毛利先生は、あたかも眼中に生徒のないような、悠然とした態度を示しながら、一段高い教壇に登って、自分たちの敬礼に答えると、いかにも人の好さそうな、血色の悪い丸顔に愛嬌のある微笑を漂わせて、「諸君」と、金切声・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・千駄木にいられた頃だったか、西園寺さんの文士会に出席を断って、面白い発句を作られたことがある……その句は忘れたが、何でもほととぎすの声は聞けども用を足している身は出られないというような意味のことだった。 * 夏目さん・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・尤も拠ろない理由で籍を置いたので、専門学校の科程を履修しようというツモリは初めからなかったのだから、籍を置いたというだけで、殆んど出席しなかったが、坪内君の講義はその時分評判であったゆえ数回聞いた事がある。であるから坪内君は私の先生ではある・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・学生の倶楽部や青年の会合には必ず女学生が出席して、才色あるものが女王の位置を占めていた。が、子女の父兄は教師も学校も許す以上はこれを制裁する術がなく、呆然として学校の為すままに任して、これが即ち文明であると思っていた。 自然女学校は高砂・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・というような題の小説を書くほどの神経の逞しさを持っていながら、座談会に出席すると、この頃の学生は朝に哲学書を読み、夕に低俗なる大衆小説を読んでいるのは、日本の文化のためになげかわしいというような口を利いて、小心翼々として文化の殉教者を気取る・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・その朝、隣組の義勇隊長から義勇隊の訓練があるから、各家庭全員出席すべしといって来た。「どんな訓練ですか」「第一回だから、整列の仕方と、敬礼の仕方を教えて、あとは講演です」 と、いう。「僕は欠席します。整列や敬礼の訓練をしたり・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・私は座談会に出席して一言も喋らないような人を畏敬しているのである。女を口説くにも「唖の一手」の方が成功率が多い。議論する時は、声の大きい方が勝ちだというのは一応の真理だが、私は一言も喋らずに黙っている方が勝つということを最近発見した。口は喋・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・つまり、てんで、私の出席するしないが、彼には問題ではないらしい。 いったい今度の会は、最初から出版記念とか何とかいった文壇的なものにするということが主意ではなかったので、ほんの彼の親しい友人だけが寄って、とにかくに彼のこのたびの労作に対・・・ 葛西善蔵 「遁走」
出典:青空文庫