・・・ が、また娘分に仕立てられても、奉公人の謙譲があって、出過ぎた酒場の給仕とは心得が違うし、おなじ勤めでも、芸者より一歩退って可憐しい。「はい、お酌……」「感謝します、本懐であります。」 景物なしの地位ぐらいに、句が抜けたほど・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ちっと出過ぎやしないかね。」「主人も糸瓜もあるものか、吾は、何でも重隆様のいいつけ通りにきっと勤めりゃそれで可いのだ。お前様が何と謂ったって耳にも入れるものじゃねえ。」「邪険も大抵にするものだよ。お前あんまりじゃないかね。」 と・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・普通な人間の親父なる彼が境涯を哀れに思うなどは、出過ぎた料簡じゃあるまいか。まずまず寝ることだと、予は雨戸を閉めようとして、外の空気の爽かさを感じ、又暫く戸口に立った。 風は和いだ。曇っては居るが月が上ったと見え、雲がほんのり白らんで、・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・何だ。出過ぎたことを。 あら父様、お怒りなすったの。綱雄さんだって悪気で言ったのではありませんよ。何ですねえそんな顔をなすって。 ええ引ッ込んでいろ。手前の知ったことではないわ。と思わぬ飛※を吹きぬ。 それは大事な魂胆をお聞き及・・・ 川上眉山 「書記官」
「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋灯の穂を細めながら尋ねた。 津田君がこう云った時、余ははち切れて膝頭の出そうなズボンの上で、相馬焼の茶碗の糸底を三本指でぐるぐる廻しながら考えた。なるほど珍ら・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫