・・・ 退屈な乳牛共が板敷をコトコト踏みならす音や、ブブブブと鼻を鳴らすの、乾草を刃物で切る様な響をたてて喰べて居るのなどが入りまじって、静かな様な、やかましい様な音をたてて居る。 わきに少しはなれて子牛と母牛を入れてある処がある。乳臭い・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・……恥をお話ししなければ分らないけれど、急に暴れ出しましてね、刃物三昧しかねない有様なんですから、……本当に……」 石川は、幸雄の寧ろ女らしいくらいの挙動を知っているので却って信じ難いようであった。「前からそんな癖がおありだったんで・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ 四畳半には鋭利な刃物で、気管を横に切られたお蝶が、まだ息が絶えずに倒れていた。ひゅうひゅうと云うのは、切られた気管の疵口から呼吸をする音であった。お蝶の傍には、佐野さんが自分の頸を深くえぐった、白鞘の短刀の柄を握って死んでいた。頸動脉・・・ 森鴎外 「心中」
・・・ その時ツァウォツキイは台所で使う刃物を出した。そしてフランチェンスウェヒを横切って、ウルガルン王国の官有鉄道の発起点になっている堤の所へ出掛けた。 ここはいつもリンツマンの檀那の通る所である。リンツマンの檀那と云うのは鞣皮製造所の・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫