・・・空中電気というとわかったような顔をする人は多いがしかし雨滴の生成分裂によっていかに電気の分離蓄積が起こり、いかにして放電が起こるかは専門家にもまだよくはわからない。今年のグラスゴーの科学者の大会でシンプソンとウィルソンと二人の学者が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ これとは少し種類は違うが、細胞分裂の機構を説明する一つのモデルとして、表面張力の異同による液滴の分裂などを研究している学者もある。そういうおもしろい研究に対してもその研究題目それ自身に対していろいろの故障を申し立てる学者があると見えて・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・筒井俊正君の実験で液滴が板上に落ちて分裂する場合もこれに似ている事が知られた。葡萄酒がコップをはい上がる現象にも類似の事がある。 剃刀をとぐ砥石を平坦にするために合わせ砥石を載せてこすり合わせて後に引きはがすときれいな樹枝状の縞が現われ・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 道太は何をするともなしに、うかうかと日を送っていたが、お絹とおひろの性格の相違や、時代の懸隔や、今は一つ家にいても、やがてめいめい分裂しなければならない運命にあることも、お絹が今やちょうど生涯の岐路に立っているような事情も、ほぼ呑みこ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・「やっぱり分裂していたんだ。」「あいつが死んだらほんとうにせいせいするだろうね。」というような声ばかりです。 捕り手のねずみは、いよいよ白いたすきをかけて、暗殺のしたくをはじめました。 その時みんなのうしろの方で、フウフウと・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・バクテリヤは次から次と分裂し死滅しまるで速かに速かに変化してるのです。それを殺すと云ったところで馬を殺すというようのとは大分ちがいます。又バクテリヤの意識だってよくはわかりませんがとにかく私共が生れつきバクテリヤについては殺すとかかあいそう・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・私はその言葉を心に印されて今なお記憶しているのであるけれども、そのような批評を可能ならしめた、階級感情の小市民的分裂は、この二三年間の画期的鍛錬によって、一般的に統一の方向にむかい、もとの低さに止ってはいないのである。 先月号の『行動』・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・第一、考えること、思想するということを、現実からはなれることと考えた古いブルジョア文化の分裂した理解こそ、非現実です。日本では、封建の習慣から、女性にはなおさら、むずかしく考えるにはおよばない、という態度が示されました。ところが、現実はどう・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・という小説に書いた時代からすすんで、こんにちではどこの国でも、一九二〇年代の終りから三〇年代にかけての日本にみられたような、世代の分裂、親と子の離反としてだけに止っていない。親と子、世代と世代とが、マルクシズムに対する観念上の対立というよう・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ロシア文学の古典の中でも、いま日本に流行しているのは、プーシュキンやゴーゴリの作品でなく、その文学の世界が、永久の分裂で血を流しているドストイェフスキーであるという事情には、いまの日本のこの社会的な心理がかかわっている。解決のない人間の間の・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
出典:青空文庫