・・・のうまやにとじこめられていた人類の伸びようとする精神は、二十世紀はじめのフランスのデガダニストたちのように、遂にわが身一つを破り分裂させることにおいてではなく、発展させられる方向が社会主義のうちにこそあるということがわかった。二十世紀に入っ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ プロレタリアートの心持を書こうとして客観的現実と主観とが非弁証法的な分裂をとげたというのではない。「亀のチャーリー」は、生々したたくましい現実としてのプロレタリアートの日常に作用している革命性、そのための組織など書いていない。まし・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・それは、集団農場組織にさいして都会から派遣されてきた指導者とそこの富農とが階級的分裂をする。その心理的動機を個人的な恋愛問題嫉妬などで表現していることである。 カターエフに云わせれば、富農の妻が集団農場組織のために派遣された指導者に共鳴・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・やはりその人々は親子関係における基本的人権についての理解は古いままで、親の方だけ切離して社会問題に取上げて判定されたような分裂が起ってきやしないか。つまりこういうような殺人事件、詐欺とか強盗、そういう事件では社会の責任を指摘するでしょう。し・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・此処でわれわれの完全に共通した問題は分裂する。 われわれは前に、その正邪に拘らず、資本主義を認め、社会主義を認めた。この相対立する二つの社会機構を認めたと云うことは、われわれが歴史を認めたと云うことに他ならない。しかしながら、われわ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・彼の爪が勃々たる雄図をもって、彼の腹を引っ掻き廻せば廻すほど、田虫はますます横に分裂した。ナポレオンの腹の上で、東洋の墨はますますその版図を拡張した。あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・益々無数の火花を放って分裂するであろう。かかる世紀の波の上に、終にまた我々の文学も分裂した。 明日の我々の文学は、明らかに表現の誇張へ向って進展するに相違ない。まだ時代は曾てその本望として、誇張の文学を要求したことがない。そうして、今や・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・勝利を得るまでの分裂した生活の惨めさは、目下の自分の力ではいかんともし難い。 私は一つのことを悟り得た。迷いと屈托とに遅滞しているゆえをもって、直ちにその人の人格を卑しめてはいけない。態度の純一のゆえに、直ちにその人の人格を過大視しては・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・これなくしては人は意識の混沌と欲求の分裂との間に萎縮しおわらなくてはならぬ。人が何らか積極的の生を営み得るためには「虚無」さえも偶像であり得る。 偶像が破壊せられなくてはならないのは、それが象徴的の効用を失って硬化するゆえである。硬化す・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫