・・・一 余死せば朝日新聞社より多少の涙金渡るべし一 此金を受取りたる時は年齢に拘らず平均に六人の家族に頭割りにすべし例せば社より六百円渡りたる時は頭割にして一人の所得百円となる計算也一 此分配法ニ異議ありとも変更を許さず右之・・・ 二葉亭四迷 「遺言状・遺族善後策」
・・・気儘に振舞う金が正しい労働から得られない実際、そしてまためいめいの家庭はインフレーションによって、せまいながらも楽しいわが家と歌われたそのつつましい安心のよりどころを失って、食べものの分配にからんでさえも、嶮しい感情がひそめられるような状態・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・そういう農場では、生産、利潤の分配すべてを共有に、共産主義的にやって行く農場経営の形だ。 そのコンムーナに小学校がある。数本の白樺と檜の樹にかこまれた丸太づくりの小さい学校だ。が、そこに一人の精力的な教師が働いている。一九一七年までその・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そのサーニが、臓品分配のことから刃傷沙汰を起し、半殺しの目にあってシベリアの雪の中に倒れていたところを、その地元の「嘗て浮浪児たりし人々のコンムーナ」すなわち少年労働訓練所に救護された。サーニが到頭、自身を卓抜な青年労働者にたたき上げる迄の・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・東京板橋の区民が、食糧管理委員会を組織し、板橋の造兵廠内に隠匿されてあった食糧を発見、それを区民に特別分配した。新聞は、群集した区民に向って、気前よく米、麦、大豆、乾パン類を分配している光景のスナップを掲載した。 それはこの一月二十一日・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ 彼の注意は、女のように外面に向ってばかり分配され、考えることも、することも、反省も、外からの刺戟がないと働き出さないごく受身なものと思われる。 他人のようにはっきりこれ等の点を考えると、元、私は何かの力でそれを更え、雄々しい、創造・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・役所の規定は「食物は等分に分配すべし」とだけあって、配られたのが骨ばかりだったにしてもそれはその兵士の不運なのだし、ましてそれを噛む顎を弾丸にやられていたとすれば、それこそその兵の重なる不運と諦めるしかない状態なのであった。病院へのあらゆる・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・自分の指先で植える一つ一つの字が、自分たちの階級の善意を愚弄するような本質のものであるのに、その作業から経営者が厖大な利潤を得るからそれを合理的分配に置こうとするだけであるなら、勤労者の人間としての要求は、一面的だと思われる。直接の関係がそ・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・一つ家の中には家内持ちの二人の伯父がいて、財産分配のことから祖父と悪夢のようにののしり合い、時には床をころげてなぐりあった。そうかと思うと大人まで加わって、半盲目の染物職人に残酷きわまるいたずらをしかける。 子供らは、家の中にいる時は大・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・は、戸主が婦人の社会的地域に十分の同情と理解とを持って、財産相続或は分配の場合に、ヨーロッパ諸国のように、女子にも適当な経済上の保護、分配を与えるべきである、と主張している。日本の家族制度では、相続権は長男にある。同じ子供でも、女子は権利を・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫