・・・前後を切断せよ、妄りに過去に執着するなかれ、いたずらに将来に望を属するなかれ、満身の力をこめて現在に働けというのが乃公の主義なのである。しかるに国へ帰れば楽ができるからそれを楽しみに辛防しようと云うのははかない考だ。国へ帰れば楽をさせると受・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・自我と自意識の課題は、自我と社会的現実とのあるとおりの諸関係から切断して、どんな発展もない。インフレーションやアルバイトときりはなして、今日のわたしたちの学習生活が存在しないとおり、もし、今日の若い人々が経済事情をけとばしたような抽象的な学・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・機械の統制ある活動の美しさ、歓び、音響、一分間に何本の木材を切断するかという速力についても書かれている。しかし、これだけなら構成派の作家がもと盛に書いたよ。グングン働く機械を見て『アア神よ! 我々近代人を陶酔させる力はこれだ!』という工合に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・は母性と私有財産制のみっともない結びつきを革命的に截断し、がっちり社会主義社会連帯の間に母性を組みなおした。職業組合に属さぬ勤労婦人はない。生れて、彼を社会成員として受けいれる組織をもたぬ赤坊はない。 これだけのことを知って、みなさん、・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・「横光の自我は現実を截断する力がないから未完成である」と。普通の言葉でこれを云うと、横光氏の生活、思想態度は頭の中でだけ描かれ組立てられていて、現実の矛盾にとり組む芸術的リアリティーをもっていないから未しであるという意味なのである。 か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・高い建物、広告塔、アンテナ、其等の錯綜した線に切断され、三角の空、ゆがんだ六角の空、悲しい布の切端のような空がある。 屋根と屋根との狭いすき間からマリが落ちたような月の見える細長い夜の空、郊外の空にない美があるのを感じる。〔一九二六・・・ 宮本百合子 「空の美」
・・・は、恒久な意識の流れを截断した瞬間的断面だと云えるならば、「私」も亦、伝説が、日本の神人を語るより以前からの「日本人」の一断面ではないだろうか。私は今、紐育の町中に居る。私の足の下には靴の皮がある。キルクの床がある。石とコンクリートの下には・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・その案を思いついた人々は、明らかに今日というものから見た歴史をその立場からの解義によって判断して、古典を截断し、ふさわしいと考えられるものにした次第であろう。 このように錯雑した現実の中にある現代の文学としては、云ってみれば、文学と歴史・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・前後を截断して非常に短い時間の内容を、種々な迷執を持つ「我」を主として価値を定め、批判しようとするから、勢い、狭量な、自己肯定に堕し易い。 人類の生活は時というものに関する認識が、今日程明白に意識されない時代から初まっていました。時に、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・それは鈍った鉛の切断面のようにきらりと一瞬生活の悲しさが光るのだ。だが、忽ち彼はにやりと笑って歩き出した。彼は空壜の積った倉庫の間を通って帰って来るとそのまま布団の中へもぐり込んで円くなった。 彼は雑誌を三冊売れば十銭の金になることを知・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫