・・・「今日明日とみっちり刈れば明後日は早じまいの刈り上げになる。刈り上げの祝いは何がよかろ、省作お前は無論餅だなア」 そういうのは兄だ。省作はにこり笑ったまま何とも言わぬうち、「餅よりは鮓にするさ。こないだ餅を一度やったもの、今度は・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・地下室にある理髪店へ行くと、金縁眼鏡をかけたそこの主人はあなたのような髪は時局柄不都合であると言って、あれよあれよと驚いている間に、私の頭を甲型か乙型か翼賛型か知らぬがとにかく呉服屋の番頭のような頭に刈り上げてしまった。私は憤慨して、何が時・・・ 織田作之助 「髪」
・・・「うんと、うしろを短く刈り上げて下さい。」口の重い私には、それだけ言うのも精一ぱいであった。そう言って鏡を見ると、私の顔はものものしく、異様に緊張してぎゅっと口を引きしめて気取っていた。不幸な宿命にちがいない。散髪屋に来てまで、こんなに・・・ 太宰治 「美少女」
出典:青空文庫