・・・――横露地の初午じゃないか。お祭のようだと祝ったんだよ。」「そんな事……お祭だなんのといって、一口飲みたくなったんじゃあ、ありません? おっかさんならですけど、可厭よ、私、こんな処で、腰掛けて一杯なんぞ。」「大丈夫。いくら好きだって・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・正月は早くも去って、初午の二月になり、師匠むらくの持席は、常磐亭から小石川指ヶ谷町の寄席にかわった。そしてかの娘はその月から下座をやめて高座へ出るようになって、小石川の席へは来なくなった。帰りの夜道をつれ立って歩くような機会は再び二人の身に・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・ならべもてゆくことごとく歌よみいでし顔を見てやをら晩食の折敷ならぶる汁食とすすめめぐりてとぼしたる火もきえぬべく人突あたる戸をあけて還る人々雪しろくたまれりといひてわびわびぞ行初午詣稲荷坂見あぐる朱の大鳥・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫