・・・ 今度のノーベル・プライズのために不意打ちをくらった世間が例のように無遠慮に無作法にあのボーアの静かな別墅を襲撃して、カメラを向けたり、書斎の敷物をマグネシウムの灰で汚したり、美しい芝生を踏み暴したりして、たとえ一時なりともこの有為な頭・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 林述斎が隅田川の風景を愛して橋場の辺に別墅を築きこれを鴎と命名したのは文化六年である。その詩集『上漁謡』に花時の雑沓を厭って次の如くに言ったものがある。花時上佳 〔花時 上佳し雖レ佳慵レ命レ駕 佳しと雖も駕を命ずる・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・狛君の別墅二楽亭広き水真砂のつらに見る庭のながめを曳て山も連なる 前の歌と同じ調子、同じ非難なり。〔『日本』明治三十二年四月二十二日〕酔人の水にうちいるる石つぶてかひなきわざに臂を張る哉 これ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫