・・・ 同じ人物でありながら、この三人ずつの一組は、鳥居の外から中央に至り、さては上手の端の牛飼童に終る一群の人々とは、何と別様に扱われていることだろう。 画家は、画面のリズムの快よい流れの末としてこの六人を見ている。そのために、鳥居とそ・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・何故なら、作家野上彌生子の年齢的同時代としては、谷崎潤一郎だの平塚らいてうだの、僅六歳の年長者として永井荷風等があり、それらの人々の生活内容と作品とは、あなたとは全く別様のものです。あなたのように若いジェネレーションの息吹きがその作品の内に・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・ より年代の若い人々の間には、また別様の求望がある。社会進化の必然という原理については理性的に十分わかった。自身の生涯の道も、それに呼応するものでしかありえないと思える。だが、その原理の理説には、なにか人間らしいゆたかな詩情が欠けている・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 大戦前後、先ず高まった一般の購買力のあらわれの一面として自身を表現した読者たちは、あの時代にはやがてそのような景気のいい購買力を失っても猶続く自分たちの社会成員としての力を別様に表現して、日本の文学に新しい息ぶきをもたらす文学上の動き・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・ 現実に面してひるまない精神ということと、何が出ようとも何とも感じず常にそこから自分にとって一番好都合の部分をかすめとって来る機敏さというものとは、全然別様のものである。歴史に働きかける力としての存在ということも、いつも立役者として舞台・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ 数年前、プロレタリアートの擡頭とともに文学における階級性の問題が提出された頃、インテリゲンチアの苦悩と不安とは今日と全く別様な本質をもっていた。新たな世界観を我ものとして身につけ切れない自身を自覚して、自分の弱さを苦しく思う心持。イン・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 結構なことであると思ったのであったが、私の心にはこの事につれ、おのずから又別様の観察が湧いた。有名なイタリーの犯罪心理学者であったロンブロゾーは、人間の頭蓋骨の発達の型や、顔面の角度の関係やらを統計して今日でも適用されている所謂犯罪型・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・私達は、然し、そのことを又別様に考える。バルザックが、人類史を知らなかったこと、そのような本を積上げた祖父の大書庫などはないバルザの家に生れたことこそ、彼がその文学的成功においても、破綻においても、全く当時としてのリアリストたり得たことの基・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・法律としてつくられていないものは、強制にはならないとあれば、民間の実感からいつとなし強制貯金という言葉が生れて使われていることもまた別様の意味で面白い。 今日の電力不足は旱天が大半の理由でありましてと、勝逓相の答弁が始められると、議場に・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・或る別様の生活がこの間を領している。それは声の無い生活である。声は無いが、強烈な、錬稠せられた、顫動している、別様の生活である。 幾つかの台の上に、幾つかの礬土の塊がある。又外の台の上にはごつごつした大理石の塊もある。日光の下に種々の植・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫