・・・ つぎに人性の千古の悩みである利己か、利他かの問題がある。利己主義には深い根拠があり合理的に、正直に思索するときには誰しも一応は利己主義に帰著するくらいのものである。むしろここから反転して利他主義に飛躍するのが道筋ともいえる。リップスの・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・自然界ではこのように、利己がすなわち利他であるようにうまく仕組まれた天の配剤、自然の均衡といったようなものの例が非常に多いようである。よく考えてみると人間の場合でも、各自が完全に自己を保存するように努力さえしていれば結局はすべての他のものの・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・しかし乙はその自由のためにかえって甲の先をくぐって積極的に進出する事もあるし、自分の自由を尊重すると同時に人の自由を尊重するという意味では利他的である。反対に乙型の人間から見れば甲型の人々は積極的なようではあるが、また無用な勢力の浪費者であ・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・いったい普通に使われる利己と利他という二つの言葉ほど無意味な言葉は少ない。元来無いものに付せられた空虚な言葉であるか、さもなければ同じ物の別名である。ただ人を非難したり弁護したりする時や、あるいは金を集めたり出したりする時に使い分けて便利な・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫