・・・ものだという考えをもう一ぺんひっくり返して、結局災難は生じやすいのにそれが人為的であるがためにかえって人間というものを支配する不可抗な方則の支配を受けて不可抗なものであるという、奇妙な回りくどい結論に到達しなければならないことになるかもしれ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・儒教はそれ故宗教の域に到達していないものかも知れない。しかしこの問題については、わたくしは確乎とした考を持っていない。今日に至るまでこれを思考することができなかったとすれば、恐くは死に至るまで、わたくしは依然として呉下の旧阿蒙たるに過ぎぬで・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を見、且つ生もうとする段階に到達しているのである。徳永氏が傑れたものとしてあげている『中央公論』六月号のスペイン戦線からの作家たちのルポルタ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・従って女としてのそういう苦痛な生涯のありようから人間的な成長、達観へ到達する道は諦めしかなく、諦めということもそれだから女らしさといわれる観念の定式の中には一つの大切な要素としてあげられて来ているのである。 戦国時代ある大名の夫人が、戦・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・きょうに生きている自分たちは、どのような人間社会の歴史の到達点にたって、更にそれぞれの可能を将来に実現してゆこうとしているのか、よりよい明日はそのうしろにどんな今日をもちきのうをもっているか。それを生きる現実の姿で味い、学ぶところにこそ文学・・・ 宮本百合子 「あとがき(『作家と作品』)」
・・・作者はいつも人間的立場にたっており、しかし、その人間的な立場の現実的な内容について、まだ科学的な歴史と階級について理解に到達していないのである。 一九二三年と云えば日本では、無産階級解放運動の初期で、アナーキズムとボルシェビズムとの対立・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・もちろん書を読んで深く考えたら、道に到達せずにはいられまい。しかしそうまで考えないでも、日々の務めだけは弁じて行かれよう。これは全く無頓着な人である。 つぎに着意して道を求める人がある。専念に道を求めて、万事をなげうつこともあれば、日々・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・――我々は現戦争のあらゆる著しい特質を見まわしたあとで、結局、最近の自然力支配は人間の罪悪と不幸とを一層深めた、という結論に到達する。すなわち解放せられた自然的欲望はその自由の悪用のゆえに貪婪の極をつくしてついに自分を地獄に投じた。人智の誇・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・人静かにして月同じく照らすというところに、当時の漱石の人間に対する態度や、自ら到達しようと努めていた理想などが、響き込んでいるように思われる。 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・として第一義に活動せんとするものは、一度は人生問題の関門に到達せねばならぬ。二 眼を人生の百般に放つ。光明なる表面は暗黒なる罪悪を包む。闇の中には爆裂弾をくれてやりたい金持ちや馬糞を食わしてやりたい学者が住んでいる。万事はた・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫