・・・しかし、前書はもうこれくらいで充分であろう。 ある罹災者の話である。名前はかりに他三郎として置こう。そして私の好みに従って、他アやんと呼ぶことにする。 他アやんは大阪の南で喫茶店をひらいている。この南というのは、大阪の人がよく「南へ・・・ 織田作之助 「起ち上る大阪」
・・・というのがあって、それには「法の心を」という前書が附いていた。実に、どうにも名句である。私は一語の感想も、さしはさむ事が出来なかった。立派な句には、ただ、恐れ入るばかりである。凡兆も流石に不機嫌になった。冷酷な表情になって、 能登・・・ 太宰治 「天狗」
・・・テモテ前書の第二章。このラプンツェル物語の結びの言葉として、おあつらいむきであると長兄は、ひそかに首肯き、大いにもったい振って書き写した。 ――この故に、われは望む。男は怒らず争わず、いずれの処にても潔き手をあげて祈らん事を。また女は、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
短い前書 ソヴェト同盟の生産面における五ヵ年計画というものは、今度はじめて試みられたものではなかった。誰でも知る通り、ソヴェト同盟の全生産は国家計画部と最高経済会議とが中心となって生産組合、職業組合と・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして、これらのことはジイドがその前書の中で予見していたよりも深甚な反動としての影響を今日の人類の運命と文化の発達の上に明にマイナスなものとして、与えないとは決して云えない。ジイドとして、その結果については思うように思わしめよ、と云うには、・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・と激昂した前書で、はる子には思いがけない内容であった。圭子を憎悪して罵った手紙であった。はる子の圭子に対する友情を尊んで家へはもう来ない。最近自分には×、×などというよい友達が出来たから心配はいらぬと云う結びであった。猶々云い足りぬらし・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・を催し、そこの婦人記者となった長谷川寿子は、自身の略歴を前書にして「遂に過去の一切の共産思想という運動を清算し」大谷尊由に対談して、長谷川「歎異鈔なんか拝読いたしますと『善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや』と書いてありますから、吾々共・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・やさしい言葉で、インドの社会的事情が前書として説明してある。終りに「何をよむべきか」簡単なインド事情紹介の本の名があげられている。「若い観衆の劇場」は芸術的な演出、特色あるギリシャ式舞台でヨーロッパ各国に知られている。芸術部員は、研究室・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・というような前書で、それを形象化しようとしたコントを書き、そういうものをいくつか一篇として並べているのである。 この作品一つでどうなるというほど強烈なものではないけれども、横光に見るような主観的な高邁への憧憬にしろ「ひかげの花」の地につ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・推薦者徳永さんの前書に、「私は二十年前の若い労働者作家として感慨をもって思いくらべながら、現代の青年労働者作家を読者の前に紹介する」といわれています。ここのところを、もっともっと、客観的に、民主主義文学の問題として説明していただきたかったと・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫