・・・兄とは大学で同級生だったらしく、その関係もあり、笠井氏と僕とは、単に作家と編輯者の附合い以上に親しくしていて、僕の雑誌でも笠井氏の原稿をもらうのは、もっぱら僕の係りで、また笠井氏も、僕の原稿依頼なら、割に機嫌よく聞いてくれたものでした。・・・ 太宰治 「女類」
・・・妹は、何も知らず、割に元気で、終日寝床に寝たきりなのでございますが、それでも、陽気に歌をうたったり、冗談言ったり、私に甘えたり、これがもう三、四十日経つと、死んでゆくのだ、はっきり、それにきまっているのだ、と思うと、胸が一ぱいになり、総身を・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・曇っていた日であったが、割にあたたかで、雪道からほやほや湯気が立ち昇っている。 すぐ右手に海が見える。冬の日本海は、どす黒く、どたりどたりと野暮ったく身悶えしている。 海に沿った雪道を、私はゴム長靴で、小川君はきゅっきゅっと鳴る赤皮・・・ 太宰治 「母」
・・・り、また或る時は宝くじ売りをした事もあって、この頃は、表看板は或る出版社の編輯の手伝いという事にして、またそれも全くの出鱈目では無いが、裏でちょいちょい闇商売などに参画しているらしいので、ふところは、割にあたたかの模様である。「音楽は、・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・食糧を貯蔵しなかった怠け者の蟋蟀が木枯しの夜に死んで行くというのが大団円であったが、擬音の淋しい風音に交じって、かすかなバイオリンの哀音を聞かせるのが割に綺麗に聞きとれるので、これくらいならと思って安心したのであった。 色々な種類の放送・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・ 近頃一方に制服ばやりがあると共に、他方では極端な服装の単一化が考えられているけれども、先頃ナチスのヒットラー・ユーゲントが来たとき、割にその近くで接触していた人の話では、ユーゲントたちは制服は一通りだけれども、服装としては六七通りはそ・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫