・・・一は記事に過ぎないが一は渾然たる創作である。ここに附記していう。岡鬼太郎君は近松の真価は世話物ではなくして時代物であると言われたが、わたくしは岡君の言う所に心服している。 西鶴の価を思切って低くして考えれば、谷崎君がわたくしを以て西鶴の・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・して見ると、つまりは純文学の批評家は純文学の方面に関するあらゆる創作を検閲して採点しつつある事になる。前例を布衍して云うと地理、数学、物理、歴史、語学の試験をただ一人で担任すると同様な結果になる。 純文学と云えばはなはだ単簡である。しか・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・けれども創作の方面で自己を発揮しようとは、創作をやる前迄も別段考えていなかった。 話が自分の経歴見たようなものになるが、丁度私が大学を出てから間もなくのこと、或日外山正一氏から一寸来いと言って来たので、行って見ると、教師をやって見てはど・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・とを創作した時の、私の態度の違いさ。 だが、要するに、書いていてまことにくだらない。子供が戦争ごッこをやッたり、飯事をやる、丁度そう云った心持だ。そりゃ私の技倆が不足な故もあろうが、併しどんなに技倆が優れていたからって、真実の事は書ける・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・それに関連する創作方法の問題として、リアリズムの実践も深めなければならなくなって来るのである。 平和が齎されたとき、一つの文化的な記念として戦線から兵士たちが家郷に送った家信集が、是非収録出版されるべきである。今日、所謂高級ではない雑誌・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・文学の創作方法の問題では、プロレタリア・リアリズム・唯物弁証法的創作方法、社会主義的リアリズムへと世界の歩みにしたがって進み、全国に文化、文学サークル組織のつくられた時期であった。 そして当時のファシズム権力の下でサークルの活動は、人民・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・翻訳をするものは、そのまま危険物の受売をするのである。創作をするものは、西洋人の真似をして、舶来品まがいの危険物を製造するのである。 安寧秩序を紊る思想は、危険なる洋書の伝えた思想である。風俗を壊乱する思想も、危険なる洋書の伝えた思想で・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 八、創作家としての伎倆 少し読んだばかりである。しかし立派な伎倆だと認める。 九、創作に現れたる人生観 もっと沢山読まなくては判断がしにくい。 十、その長所と短所 今まで読んだと・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
・・・ よく作家が寄ると、最後には、子供を不良少年にし、餓えさせてしまっても、まだ純創作をつづけなければならぬかどうかという問題へ落ちていく。ここへ来ると、皆だれでも黙ってしまって問題をそらしてしまうのが習慣であるが、この黙るところに、もっと・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・能楽が今でも日本文化の一つの代表的な産物として世界に提供し得られるものであるとすれば、その内の少なからぬ部分の創作者である世阿弥は、世界的な作家として認められなくてはなるまい。のみならず世阿弥は、能楽に関する理論においても、実に優秀な数々の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫