・・・この事実の存する限り、如何に割引きを加えて見ても、菊池の力量は争われない。菊池は Parnassus に住む神々ではないかも知れぬ。が、その力量は風貌と共に宛然 Pelion に住む巨人のものである。 が、容赦のないリアリズムを用い尽し・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・が、この何かを表現することはわたしの力量には及ばなかった。のみならず表現することを避けたい気もちも動いていた。それはあるいは油画の具やブラッシュを使って表現することを避けたい気もちかも知れなかった。では何を使うかと言えば、――わたしはブラッ・・・ 芥川竜之介 「夢」
・・・その中でもがんばり方といい、力量といい一段も二段も立ちまさっていたのは奴だった。東京のすみっこから世界の美術をひっくり返すような仕事が出るのを俺たちは彼において期待していた。だのに、あまりにすぐれたものは神もねたむのだろう。奴は倒れてしまっ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・これが時勢であろうけれども、この時代の汐先きを早くも看取して、西へ東へと文壇を指導して徐ろに彼岸に達せしめる坪内君の力量、この力量に伴う努力、この努力が産み出す功労の大なるは誰が何といっても認めなければならぬ。 近来はアイコノクラストが・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・しかるに、その子供に人生の希望と高貴な感激を与えて、真に愛育することを忘れて、つまらぬ虚栄心のために、むずかしいと評判されるような学校へ入れようとしたり、子供の力量や、健康も考えずに、顔さえ見れば、勉強! 勉強! というが如きは、却って、其・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・あなたの言葉と少しの間隙も無くぴったりくっついて立っているのを見事に感じ、これは言葉に依る思想訓練の結果であろうか、或いはまた逆に、思想に依る言葉の訓練の成果であろうか、とにかく永い修練の末の不思議な力量を見たという思いを消す事が出来ません・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・あのまま伸びたら、良い人物になり社会的の働きに於いても、すぐれたる力量を示すのも遠い将来ではございますまい。二十五歳で町長、重役頭取。二十九歳で県会議員。男ぶりといい、頭脳といい、それに大へんの勉強家。愚弟太宰治氏、なかなか、つらかろと御推・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ったら、もうどう仕様もないことですし、これから書こうと思っている小説を、どんなにパッションもって語っても、いまのところ私は、そんなに優秀の大傑作、書けないのが、わかっていますし、現在の私の作家としての力量も、たいてい見当がついていますし、だ・・・ 太宰治 「正直ノオト」
・・・右の腕を、虚空を斫るように、猛烈に二三度振って、自分の力量と弾力との衰えないのを試めして見て、独り自ら喜んだ。それから書いたものをざっと読んで見た。かなりの出来である。格別読みづらくはない。いよいよ遣らなくてはならないとなると、遣れるものだ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・落ち埋むと字余りにして埋むを軽く用いたるは蕪村の力量なり。よき句にはあらねど、埋むとまで形容して俗ならしめざるところ、精細的美を解したるに因る。精細なる句の俗了しやすきは蕪村のつとに感ぜしところにやあらん、後世の俳家いたずらに精細ならんとし・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫