・・・それがお前さん、動員令が下って、出発の準備が悉皆調った時分に、秋山大尉を助けるために河へ入って、死んじゃったような訳でね。」「どうして?」 爺さんは濃い眉毛を動かしながら、「それはその秋山というのが○○大将の婿さんでね。この人がなか・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・なく死別れて、二度目は田舎から正式に妻を迎え一時神田辺で何か小売商店を営んでいたところ、震災後商売も次第に思わしからず、とうとう店を閉じて郡部へ引移り或会社に雇われるような始末に、お民は兄の家の生計を助けるために始てライオンの給仕女となり、・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・僕が看病をして、僕が伝染して、本人の君は助けるようにしてやるよ」「そうか、それじゃ安心だ。まあ、少々あるくかな」「そら、天気もだいぶよくなって来たよ。やっぱり天祐があるんだよ」「ありがたい仕合せだ。あるく事はあるくが、今夜は御馳・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・実は私はその日までもし溺れる生徒ができたら、こっちはとても助けることもできないし、ただ飛び込んでいって一緒に溺れてやろう、死ぬことの向う側まで一緒についていってやろうと思っていただけでした。全く私たちにはそのイギリス海岸の夏の一刻がそんなに・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・グララアガア、グララアガア、その恐ろしいさわぎの中から、「今助けるから安心しろよ。」やさしい声もきこえてくる。「ありがとう。よく来てくれて、ほんとに僕はうれしいよ。」象小屋からも声がする。さあ、そうすると、まわりの象は、一そうひどく・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・数年前デパートの女店員は家庭を助けたが、今は家庭が中流で両親そろい月給で生計を助ける必要のないものというのが採用試験の条件である。「大人」に憂いが深いばかりか大人になりつつある若い男女の心も、訴えに満ちている。世の中は何故こうなったのだろう・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ 然し、お千代ちゃんを助けるつもりで、由子は自分の家で、一つ机でお千代ちゃんと一緒に勉強した。書き取りを読んだ。母に頼んでお千代ちゃんの為に歴史や地理の問題を出して貰った。 * 試験の日、由子はお千代ちゃ・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・どんな珍しいものを見るかと思って……段々海へ乗出して往く中には、為朝なんかのように、海賊を平らげたり、虜になってるお姫さまを助けるような事があるかも知れませんからね。それから、ロビンソン、クルーソーみたように難船に逢って一人ッきり、人跡の絶・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・そうしてただ、その芽の成長を助ける滋養分だけを、与えようというのです。その成長が自分の希望するような人格を造り上げて行かなくても、それは仕方がありません。それは宿命ですから。人力のいかんともしがたいものですから。しかし私は、その成長が歪にな・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・私はそれが成長することを祈り、また自己鞭撻によってその成長を助けることに努力する。これらのことのほかに、私は自己を最も好く活かす方法を知らない。――私は自己の内のある者を滅ぼすのが直ちに自己を逃避することになるとは思わない。私は自分の上に降・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫