・・・世間の評判を聴くと、まだ肩あげも取れないうちに、箱根のある旅館の助平おやじから大金を取って、水あげをさせたということだ。小癪な娘だけにだんだん焼けッ腹になって来るのは当り前だろう。「あの青木の野郎、今度来たら十分言ってやらにゃア」と、お・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 下の兵士たちは、屋根から向うを眺める浜田の眼尻がさがって、助平たらしくなっているのを見上げた。「何だ? チャンピーか?」 彼等が最も渇望しているのは女である。「ピーじゃねえ。豚だ。」「何? 豚? 豚?――うむ、豚でもい・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・君みたいな助平ったれの、小心ものの、薄志弱行の徒輩には、醜聞という恰好の方法があるよ。まずまあ、この町内では有名になれる。人の細君と駈落ちしたまえ。え?」 僕はどうでもよかった。酒に酔ったときの青扇の顔は僕には美しく思われた。この顔はあ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ ほんとに助平そうなツラをしている。」「おいおい、あまり失敬な事を言ったら怒るぜ。失敬にも程度があるよ。食ってばかりいるじゃないか。」「キントンが出来ないかしら。」「まだ、何か食う気かい? 胃拡張とちがうか。病気だぜ、君は。いち・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・自分たちの助平の責任を、何もご存じない天の神さまに転嫁しようとたくらむのだから、神さまだって唖然とせざるを得まい。まことにふとい了見である。いくら神さまが寛大だからといって、これだけは御許容なさるまい。 寝てもさめても、れいの「性的煩悶・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・みんなと歩調を合せるためにも、私はわざと踏みはずし、助平ごころをかき起してみせたり、おかしくもないことに笑い崩れてみせたりしていなければいけないのだ。制約というものがある。苦しいけれども、やはり、人らしく書きつづけて行くのがほんとうであろう・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
出典:青空文庫