・・・ 不自然な世界の中での自然な現象としては舎監やその助手のばあさんがある。自分の目にはこの二人のばあさんがもっとも理解しやすい「定型」として現われる。この二人の憎まれ役は、おそらく見ようによってはもっとも善良なる旧時代の残存者である。これ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 探偵小説と称するごときものもやはり実験文学の一種であるが、これが他のものと少しばかりちがう点は、何かしら一つの物を隠しておいて、それを捜し出すためにいろいろの実験を行なう、そうして読者を助手にしていろいろと実験を進めて行って最後に、そ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 三 御馳走を喰うと風邪を引く話 昔、自分の勤めていた役所にMという故参の助手がいた。かなりの皮肉屋であったが、ときどき面白い観察の眼を人間一般の弱点の上に向けて一風変ったリマークをすることがあった。その男の変った・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・そうしてまた一方では観測仕事の助手としても役に立つという世にも不思議な職業である。年じゅう人の行かない山の中でこうした生活をして、陸地測量、地図作製という文化的な基礎仕事に貢献しているのである。 測夫の一人はもう四十年も昔からこの仕事を・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・名医はすなわちもっとも優秀な造化の助手であるかと思われる。 肉体における医者に相当して、精神の医者もあるはずである。そういう医者に名医ははなはだまれなように見受けられる。精神の胃が悪くて盛んに吐きけのある患者に無理に豚カツを食わせてみた・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・すると気象台の風力計や風信器や置いてある屋根の上のやぐらにいつでも一人の支那人の理学博士と子供の助手とが立っているんだ。 博士はだまっていたが子供の助手はいつでも何か言っているんだ。そいつは頭をくりくりの芥子坊主にしてね、着物だって袖の・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ だんだん近付いて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡をかけ、長靴をはいた学者らしい人が、手帳に何かせわしそうに書きつけながら、鶴嘴をふりあげたり、スコープをつかったりしている、三人の助手らしい人たちに夢中でいろいろ指図をしていました・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「おれは内地の農林学校の助手だよ、だから標本を集めに来たんだい。」私はだんだん雲の消えて青ぞらの出て来る空を見ながら、威張ってそう云いましたらもうその風は海の青い暗い波の上に行っていていまの返事も聞かないようあとからあとから別の風が来て・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・陳氏は小さな支那の子供の狼煙の助手も二人も連れて来ているのでした。そして三人とも、今日はすっかり支那服でした。私は支那服の立派さを、この朝ぐらい感じたことはありません。陳氏はすっかり黒の支度をして、袖口と沓だけ、まばゆいくらいまっ白に、髪は・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・現に私のこのむすめなど、前は尖ったおかしなもんでずいぶん心配しましたがかれこれ三度助手のお方に来ていただいてすっかり術をほどこしましてとにかく今はあなた方ともご交際なぞ願えばねがえるようなわけ、あす紐育に連れてでますのでちょっとお礼に出まし・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
出典:青空文庫