・・・ 数十種の実験を皮相的申訳的にやってしまうよりも、少数の実験でも出来るだけ徹底的に練習し、出来るだけあらゆる可能な困難に当ってみて、必成の途を明らかにするように勉める方が遥かに永久的の効果があり、本当の科学的の研究方法を覚える助けになる・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・音楽が誘いおこす幻想と周囲の実況とを全く分離せしめ、互に相冒さしめぬように努めることができるようになった。 露西亜オペラの一座はそれより二年を過ぎて大正十年の秋重ねて渡来し、東京に在っては帝国劇場と有楽座とに演奏をつづけた。わたくしが始・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・ 心の立ち勝った妹を助手として持つと云う事は、何か一生の仕事を定めて、勉める姉の身としてどれほど心強いか分らない。 如何に弟達は、立派に又、数多あっても、何かにつけ細かに心づけて呉れるものは、妹に及ぶものはないのである。 私は此・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ 初めは、奪う愛は誤っている、与える愛でなければならないと細君の教育や家政への手助けや大いに努めるが、やがて「それでは男の精神が寂しい。行動では我ままをしてもいいのだ。奪われる愛というものも、特に女にとっては在っていいのだ」というところ・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・一、家をたてたい一心、一、十六七の時、母を説いて学問――に努める。一、バチェラーに貰わる。一、馬から落ちたところが打身内攻し足が引つれ、苦しむ。一、六年間床についたきり。一、恢復して伝道、〔欄外に〕Leadi・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 其故自分は、彼に対して友達であろうと努めるのである。 それがいいのだ。彼と面を合わせて居るとき、自分はどの位、落付いて居られるかと云うことを考えると、自分だけの裡に感じて居る苦痛などは、要するに自分自身の生長の力と異わない。ジイッ・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・それ故に予は次第に名を避くるということを勉めるようになった。予が久しく鴎外漁史という文字を署したことがなくて、福岡日日新聞社員にこれを拈出せられて一驚を喫したのもこれがためである。然るに昨年の暮におよんで、一社員はまた予をおとずれて、この新・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・すなわち画布や絵の具が写実を不可能にするゆえに、写実の代わりに、真実を暗示する色や線によって、ある気分、ある情緒を現わそうと努めるに至るのではないか。 しかし以上はただ一方からの観察である。現在の状況を基礎として考えればこうも見られるで・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ついに家中の十人の内九人までが軽薄なへつらい者になり、互いに利害相結んで、仲間ぼめと正直者の排除に努める。しかも大将は、うぬぼれのゆえに、この事態に気づかない。百人の中に四、五人の賢人があっても目にはつかない。いざという時には、この四、五人・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫