・・・努力をあまりつまずして具体的効果を得たいという、最もいとうべき考え方の傾向が必ずそれについで起こるものだ。そしていうまでもなく、社会はそうした傾向に対して最も冷淡に報いるものだ。彼らが社会的に輝やかしい地位をかち得ないのは当然である。 ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・なくして手当たり次第に読書することは、その割合いに効果乏しく、また批判の基準というものが立ちがたい。 自ら問いを持ち、その問いが真摯にして切実なものであるならば、その問いに対する解答の態度が同様なものである書物を好むであろう。まず問いを・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ ゴーゴリや、モリエールの持っていた冷かな情熱と憎悪を以て、今のブルジョアをバクロする喜劇を書いたら、それが一番効果があると云い度い位いだ。僕等の前には、ゴーゴリや、モリエールによって取扱わるべき材料がうようよしている。 今は小説を・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・殊に、絶滅の仕方が惨酷であったゞけ、その効果が多いような感じがした。 彼等は、自分の姓名が書かれてある下へ印を捺して、五円と、いくらか半ぱの金を受取った。その金で街へ遊びに行ける。彼等は考えた。「おや、こいつはまた偽札じゃないか。」・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・古来の死刑は、はたして刑罰の目的を達することにおいて、よくその効果を奏したか、ということは、学者のひさしくうたがうところで、これまた、未決の一大問題として存している。けれども、わたくしは、ここで死刑の存廃を論ずるのではない。今のわたくし一個・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 謂うに人に死刑に値いする程の犯罪ありや、死刑は果して刑罰として当を得たる者なりや、古来の死刑は果して刑罰の目的を達するに於て、能く其効果を奏せりやとは、学者の久しく疑う所で、是れ亦た未決の一大問題として存して居る、而も私は茲に死刑の存・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・少年もそのころは、背丈もひょろひょろ伸びて五尺七寸ちかくになっていましたので、そのマントは、悪魔の翼のようで、頗る効果がありました。このマントを着るときには、帽子を被りませんでした。魔法使いに、白線ついた制帽は不似合いと思ったのかも知れませ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・ 同じ扉の音でも、まるっきり違った効果を出す場合がある。これも作者の名は、忘れた。イギリスのブルウストッキングであるということだけは、間違いないようだ。ランタアンという短篇小説である。たいへん難渋の文章で、私は、おしまいまで読めなかった・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・それを忘れてしまえば厄介な記憶の訓練の効果は消えてしまう。試験さえすめば数カ月後には大丈夫綺麗に忘れてしまうような、また忘れて然るべきような事を、何年もかかって詰め込む必要はない。吾々は自然に帰るがいい。そして最小の仕事を費やして最大の効果・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それで乗客の感覚の上では、恰度かなりな不連続線の通過に遭遇したと同等な効果になるわけである。しかし、乗客はみな、そんな面倒なことなどは考えないで「ああ涼しい」という。科学的な客観的な言葉を用いたがる現代人は「空気がちがって来た」というのであ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
出典:青空文庫