・・・たといクロポトキンの所説が労働者の覚醒と第四階級の世界的勃興とにどれほどの力があったにせよ、クロポトキンが労働者そのものでない以上、彼は労働者を活き、労働者を考え、労働者を働くことはできなかったのだ。彼が第四階級に与えたと思われるものは第四・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ しからば、来たるべき時代においてプロレタリアの中から新しい文化が勃興するだろうと信じている私は、なぜプロレタリアの芸術家として、プロレタリアに訴えるべき作品を産もうとしないのか。できるならば私はそれがしたい。しかしながら、私の生まれか・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・りだされた明治新社会の完成のために有用な人物となるべく教育されてきた間に、べつに青年自体の権利を認識し、自発的に自己を主張し始めたのは、誰も知るごとく、日清戦争の結果によって国民全体がその国民的自覚の勃興を示してから間もなくの事であった。す・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・一国一都市の勃興も滅亡も一人一家の功名も破滅も二十五年間には何事か成らざる事は無い。 博文館は此の二十五年間を経過した。当時本郷の富坂の上に住っていた一青年たる小生は、壱岐殿坂を九分通り登った左側の「いろは」という小さな汁粉屋の横町を曲・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・の名声に動かされて勃興したので、坪内君がなかったならただの新聞の投書ぐらいで満足しておったろう。紅葉の如きは二人とない大才子であるが、坪内君その前に出でて名を成したがために文学上のアンビションを焔やしたのでさもなければやはり世間並の職業に従・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・少なくも今日の文芸美術の勃興は欧洲文化を尊重する当時の気分に発途した。 井侯が陛下の行幸を鳥居坂の私邸に仰いで団十郎一座の劇を御覧に供したのは劇を賤視する従来の陋見を破って千万言の論文よりも芸術の位置を高める数倍の効果があった。井侯の薨・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・故に、一つの主義が勃興すれば、それと対蹠的な主義が生起する。かくして、その相剋の間に真理は見出されるのを常とします。しかし、真の殉教者は、そのいずれに於ても、狂信的なるものである。即ち新社会を建設する上に於て、貴い犠牲者でもあります。 ・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・自然主義運動勃興以前の各既成作家の行きづまりは、恐ろしく、水っぽい戦争小説の洪水をもたらした。それは、後の自然主義運動に於いて作家としての生長を示した徳田秋声の、この時の作品「通訳官」を見ても、また、小栗風葉の「決死兵」、広津柳浪の「天下一・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
徳富猪一郎君は肥後熊本の人なり。さきに政党の諸道に勃興するや、君、東都にありて、名士の間を往来す。一日余の廬を過ぎ、大いに時事を論じ、痛歎して去る。当時余ひそかに君の気象を喜ぶ。しかるにいまだその文筆あるを覚らざるなり。・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・ 近ごろわが国でも土俗学的の研究趣味が勃興したようで誠に喜ばしいことと思われるが、一方ではまたここに例示したような不思議な田園詩も今のうちにできるだけ収集し保存しまたそれを現在の詩の言葉に翻訳しておくことも望ましいような気がするのである・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫