・・・彼等は殺気立ち、無鉄砲になり、無い力まで出して、自分達に勝味が出来ると、相手をやっつけてしまわねばおかない。犬喧嘩のようなものだ。人間は面白がって見物しているのに、犬は懸命の力を出して闘う。持主は自分の犬が勝つと喜び、負けると悲観する。でも・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・戦争でなくても、これだけの心尽くしの布片を着込んで出で立って行けば、勝負事なら勝味が付くだろうし、例えば入学試験でもきっと成績が一割方よくなるであろう。務め人なら務めの仕事の能率が上がるであろう。 一針縫うのに十五秒ないし三十秒かかるで・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・封書へはる一枚の切手の値があがることは、既に生計費がその幾層倍かの率で高価になっていることを示したし、同時にそれは、日本の権力者たちが、ますます内実の苦しい、勝味のない侵略戦争を押しひろげて行ったことを示したのであった。 三銭で手紙が出・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
・・・併し、彼らの話は、唐紙の倒れた形容と、秋三の方が勝味であったと云うこと以外に少しも一致しなかった。が、この二人の争いは、彼らにとって眼新しいものではないらしかった。彼らの話に拠ると、二人の家は村の南北に建っていて、二人の母は姉妹で、勘次の母・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫