・・・ 森がだんだん開けて来る頃から、そろそろ冬籠りの季節になって来て、雪などに降りこめられた禰宜様宮田が町から請負って来た粗末な笊だの蚕籠だのを編んだりするようになると、例年の通り町から、紡績工女募集の勧誘員が、部落の家々を戸別に訪問しはじめ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・婦人参政権の活動家たちは、精神総動員を初めあらゆる戦時総動員に狩り出されて、戦債の買込遊説だの、貯金の勧誘だの、全く軍事協力者として動員されてしまったのであった。最近の十四年間に、日本の婦人の解放運動は、辛じて母子保護法を通過させただけであ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・こんなときにはお母さんが勧誘して歩くのにまけまいと、少女達も、小さな穴の明いた箱を抱えて、通行する人達に「叔父さん、入れて頂戴、リバテーボンドです。私達の国のために!」と声をかけて勧めて居りました。もう沢山自由公債に応じた人でも、こ・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
・・・荷を自分だけで負い切れなく持っている男は、自分の便宜を対手に分け、荷負いかたがたの道伴れになって貰おうと勧誘する。 順当に行けば午前九時十五分に着くべき列車は十二時間延着で、午後九時過ぎ、やっと田端まで来た。私共の列車が、始めて川口、赤・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・その他あなたのお友達の中で、よしんば纏った額を一時に応募することは出来ないにしろ、毎月一円ずつぐらいなら出せるという方でもあれば、すすんで『働く婦人』の維持員になるよう勧誘して下さい。維持員にはなれないが半年分誌代前納で直接購読ならしようと・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
・・・祖母の話を物陰から聞いた事、夜になって床に入ってから、出願を思い立った事、妹まつに打ち明けて勧誘した事、自分で願書を書いた事、長太郎が目をさましたので同行を許し、奉行所の町名を聞いてから、案内をさせた事、奉行所に来て門番と応対し、次いで詰衆・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫