・・・「三万五千五百八十四号ヲ以テ勲等簿冊ニ記入ス」 書院の袋戸棚 四枚の芭蕉布にぼんやり雪舟まがいの山水を書いたもの、ふたところ三ところ小菊模様の更紗でついであって、いずれも三水がくすぶっている。その上に 山静水音高 と書いた横・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・何故なら、その頃の士族たちは、自分に息子でもあれば何とか一つ学校でも出して当時流行の官員様に仕上げ、明治の社会に位階勲等の片端でも貰うことに果敢ない幻を描いているのが通例であった。勇造の父親が、息子に学問を許さなかった心持、生意気になると、・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・母は自分の父を追懐することの多くなった晩年に於て、祖父が果した文化的な役割の、そういう新しかった面の高い価値を評価することを知らず、ただ祖父の位階勲等や、祖父の発意でたてられたある修養団体で読み上げられる「創祖西村茂樹先生」の面でだけ評価を・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
出典:青空文庫