・・・(とにかくあいつら二人は、おれにたべものはよこすが、時々まるで北極の、空のような眼をして、おれのからだをじっと見る、実に何ともたまらない、とりつきばもないようなきびしいこころで、おれのことを考えている、そのことは恐豚は心に思いながら、もうた・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 主人公はオスタップ・ベンデルという山師で、北極飛行で世界に有名なシュミット博士の息子と称するいかさま師である。このベンデルが、永年の夢として抱いているリオ・デジャネイロ市へ永住するための資金を稼ごうとして、数年来あらゆる悪辣な秘密手段・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・岩波新書の「北極飛行」の素晴しさを否定するものはなかろう。バードの「孤独」も歴史的記録である。 地殻の物語は、そこに在る火山、地震、地球の地殻に埋蔵されてある太古の動植物の遺物、その変質したものとしての石炭、石油その他が人間生活にもたら・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・北は北極から、南は砂漠。そこには綿が生え、駱駝しか歩けないような地域までひろがっている。ペルシャやアフガニスタンはすぐ隣りだ。蒙古と国境がくっついている。その中に、二十五の人種が棲んでいる。ロシアとひとくちに云っても、例えば第十六回ロシア共・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・大抵『アラビアのロレンス』『今日の戦争』『北極飛行』『阿部一族』『高瀬舟』等。 お友達への本代のことは心にかけていますが、そちらからのも手をつけずにとってあって、反って厭だということなので、子供さんのものや何かを送ろうと思います。暮まで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・その前日には、疲れているのに無理であったが北極探険隊の遭難とその救助とモスクの歓迎との実写映画を見てまだ生きていたゴーリキイがスタンドで感動し涙をハンケチで拭いている情景を見ました。五十銭です。何というやすいことでしょう。きょう『日本経済年・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ――つまんないんだ。北極冒険のことでも書いたの下さい。 グランド・ピアノの置いてある、プラカートと棕梠の鉢で飾られた集会の広間がある。奥の空室で年かさのピオニェール少女が二人、色紙を切りぬいてボールへはりつけ、何か飾ものをこしらえ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・科学の力、その美、そのよろこび、そこにある人間性を知らせる良書の一つとして岩波新書の「北極飛行」をあげることは、恐らく今日の知識人にとって平凡な常識であろうと思う。ところが、文部省の推薦図書にはこれが入っていない。何故なのだろう。審査員の中・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・ 凍った花 部屋 南向、八つ手のかげ北極、机の上に桜草をさして置いた。四五日行かず。或日見たら、すっかり凍って氷の中に入れた桜草が凋れもせず。一種の驚きと美とを感ず。珍しい経験。 ○女子大学生 ラ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 〔一九二八年〕二月三日 モスクワ 午後三時半頃日沈、溶鉱炉から火玉をふき上げたような赤い太陽光輪のない北極的太陽 雪のある家々の上にあり 細い煙筒の煙がその赤い太陽に吹き上げて居た。 五時すぎ モスクワ・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
出典:青空文庫