・・・かんちようの月 残燈影は冷やかなり峭楼の秋 十年剣を磨す徒爾に非ず 血家血髑髏を貫き得たり 犬飼現八弓を杖ついて胎内竇の中を行く 胆略何人か能く卿に及ばん 星斗満天森として影あり 鬼燐半夜閃いて声無し 当時武芸前に敵無し 他・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ それまで三十石船といえば一艘二十八人の乗合で船頭は六人、半日半夜で大阪の八丁堀へ着いていたのだが、登勢が帰ってからの寺田屋の船は八丁堀の堺屋と組合うて船頭八人の八挺艪で、どこの船よりも半刻速かった。自然寺田屋は繁昌したが、それだけに登・・・ 織田作之助 「螢」
・・・海気は衣を撲って眠り美ならず、夢魂半夜誰が家をか遶りき。 二十七日正午、舟岩内を発し、午後五時寿都という港に着きぬ。此地はこのあたりにての泊舟の地なれど、地形妙ならず、市街も物淋しく見ゆ。また夜泊す。 二十七日の夜ともいうべき二十八・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・そのときの印象がよほど強く深かったと見えて、それから長年月の後までも時々夢魔となって半夜の眠りを脅かしたそうである。また同じ島に滞在中のある夜琉球人の漁船が寄港したので岸の上から大声をあげて呼びかけたら、なんと思ったかあわてて纜をといて逃げ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・クイナらしい叩音もしばしば半夜の夢に入った。これらの鳥の鳴き声は季節の象徴として昔から和歌や俳句にも詠ぜられている。また、日本はその地理的の位置から自然にいろいろな渡り鳥の通路になっているので、これもこの国の季節的景観の多様性に寄与するとこ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・そして燈火に向って、篠崎の塾から借りて来た本を読んでいるうちに、半夜人定まったころ、燈火で尻をあぶられた徳利の口から、蓬々として蒸気が立ちのぼって来る。仲平は巻をおいて、徳利の酒をうまそうに飲んで寝るのであった。中一年おいて、二十三になった・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫