・・・南のほうには相模半島から房総半島の山々の影響もそれと認められるように思った。 高層の風が空中に描き出した関東の地形図を裏から見上げるのは不思議な見物であった。その雲の国に徂徠する天人の生活を夢想しながら、なおはるかな南の地平線をながめた・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・先生は紀元前の半島の人のごとくに、しなやかな革で作ったサンダルを穿いておとなしく電車の傍を歩るいている。 先生は昔し烏を飼っておられた。どこから来たか分らないのを餌をやって放し飼にしたのである。先生と烏とは妙な因縁に聞える。この二つを頭・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・ *船はいま黒い煙を青森の方へ長くひいて下北半島と津軽半島の間を通って海峡へ出るところだ。みんなは校歌をうたっている。けむりの影は波にうつって黒い鏡のようだ。津軽半島の方はまるで学校にある広重の絵のようだ。山の谷が・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ 政治、経済、軍事上に自己を発揮する機会をもっていない半島の青年たちが、近頃盛に音楽、舞踊、文学の分野に努力を傾けている。この現実と、以上のような青年たちの文学を愛する感情の底にあるものとは、私たちに何事かを考えさせずには置かないのであ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ 蟹が日清戦争で遼東半島というデカイ握り飯を貰ったら、熊虎狼が出しゃばって来て日露戦争で握り飯を蟹からとりあげ小さい柿の種をおしつけた。百姓姿の蟹は仕かたがないから、その柿の種にせっせと肥しをかけやっと柿の実をみのらしたら、その出来がい・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・そこから偉大な半島がノルウェエゲンの瀲や岩のある所まで延びている。 あそこにイブセンの墓がある。あそこにアイスフォオゲルの家がある。どこかあの辺で、北極探険者アンドレエの骨が曝されている。あそこで地極の夜が人を威している。あそこで大きな・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫