・・・ 目の前へ――水が、向う岸から両岐に尖って切れて、一幅裾拡がりに、風に半幅を絞った形に、薄い水脚が立った、と思うと、真黒な面がぬいと出ました。あ、この幽艶清雅な境へ、凄まじい闖入者! と見ると、ぬめりとした長い面が、およそ一尺ばかり、左・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・大学士は眼鏡をはずし半巾で拭いて呟やく。「プラジョさん。お早くどうか願います。只今気絶をいたしました。」「はぁい。いまだんだんそっちを向きますから。ようっと。はい、はい。これは、なるほど。ふふん。一寸脈をお見せ、はい。こんど・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・久留米絣の元禄袖の着物に赤いモスリンの半幅帯を貝の口に結んだ跣足の娘の姿は、それなり上野から八時間ほど汽車にのせて北へ行った福島の田舎の祖母の黒光りのする台所へも現われた。 その村は明治に入ってから出来た新開の村で、子供の頃から私がよく・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・ その晩は、仕事のために半徹夜をして、あくる朝目がさめると、私は後手で半幅帯をしめながら二階を下り、「――どうした? 電車――」と茶の間に顔を出した。「ああ、やった」 身持ちの弟嫁が縫物から丸顔をあげてすぐ答えた。「・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・白い縞の博多の半幅帯をちょっとしめて、襟のかかったふだん着に素足で、髪もくるくるとまいたままで、うちへ来てくれた。私より一つ年下のおけいちゃんだが、そのときは何と年上のひとのようであったろう。両方で懐しさときまりわるさが交々であった。池の畔・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
出典:青空文庫