・・・生々とした半熟の小鳥の血です。……とこの話をしながら、うっかりしたようにその芸妓は手巾で口を圧えたんですがね……たらたらと赤いやつが沁みそうで、私は顔を見ましたよ。触ると撓いそうな痩せぎすな、すらりとした、若い女で。……聞いてもうまそうだが・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・そしてこれを聴く小山よりもこれを読む自分の方が当時を回想する情に堪えなかった。 時は忽然として過ぎた、七年は夢のごとくに経過した。そして半熟先生ここに茫然として半ば夢からさめたような寝ぼけ眼をまたたいている。五 午後二人・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・「さとは、どう思うかねえ。」半熟卵を割りながら、ふいと言い出した。「たとえば、だね、僕がお前と結婚したら、お前は、どんな気がすると思うかね。」実に、意外の質問である。 さとよりも、母のほうが十倍も狼狽した。「ま! なんという、ば・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・これによって自分の本然の仕事がいくぶんでも能率を上げることができれば、少なくも自身にとっては下手な芸術や半熟の哲学や生ぬるい宗教よりもプラグマティックなものである。ただあまりに安価で外聞の悪い意地のきたない原動力ではないかと言われればそのと・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・「その玉子を半熟にして来てくれ」「何に致します」「半熟にするんだ」「煮て参じますか」「まあ煮るんだが、半分煮るんだ。半熟を知らないか」「いいえ」「知らない?」「知りまっせん」「どうも辟易だな」「何でご・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・しかるにこれに反対のやつは柿であって柿の半熟のものは、心の方が先ず熟して居って、皮に近い部分は渋味を残して居る。また尖の方は熟して居っても軸の方は熟して居らぬ。真桑瓜は尖の方よりも蔓の方がよく熟して居るが、皮に近い部分は極めて熟しにくい。西・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫