・・・彼らはまた己れが思想の伴侶たるべき机上の文房具に対しても何らの興味も愛好心もなく、卑俗の商人が売捌く非美術的の意匠を以て、更に意とする処がない。彼らは単に己れの居室を不潔乱雑にしている位ならまだしもの事である。公衆のために設けられたる料理屋・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・人のためにというのは、人の言うがままにとか、欲するがままにといういわゆる卑俗の意味で、もっと手短かに述べれば人の御機嫌を取ればというくらいの事に過ぎんのです。人にお世辞を使えばと云い変えても差支ないくらいのものです。だから御覧なさい。世の中・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・あるいはあらわれていても浅薄で、狭小で、卑俗で、毫も人生に触れておらんからであります。 私は近頃流行する言語を拝借して、人生に触れておらんと申しました。私のいわゆる人生に触れると申す意味は、前段からの議論で大概は御分りになったろうとは思・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ゆえに俳句を学ぶ者消極的美を唯一の美としてこれを尚び、艶麗なるもの、活溌なるもの、奇警なるものを見ればすなわちもって邪道となし卑俗となす。あたかも東洋の美術に心酔する者が西洋の美術をもってことごとく野卑なりとして貶するがごとし。艶麗、活溌、・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ チェホフは小市民的卑俗さ、愚劣な伝習というようなものを常に鋭く諷刺し、その下らなさ加減を興味深い短篇の中へ素敵な技術でもり込んでいる。然し、チェホフの諷刺は、どこまでも、自由主義人道主義的インテリゲンチアの諷刺だ。というのは、チェホフ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・がはたせられていることはなかろうが、それは一応チャーリーの子供好きの特色、独特性によるものとして、どうも納得できないのは、亀のチャーリーがピオニイル養成という現実の仕事の理解に対して示している機械的な卑俗的な、安易さである。 たとえば、・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 外国の人も日本文化の特長を手早くとりまとめようとするとき、こういう特長をとらえたことは、卑俗な日本の輸出品が、やすい香水入線香にフジヤマ、ゲイシャ、サクラなどという名をつけていたのでもわかる。戦争中、日本の超国家主義者たちは、ヒットラ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 卑俗な多くの人々にとって、ローレンスが卑猥であったなら、もっと堪えやすかったろう。なぜなら、卑猥に人々は馴れている。体面をつくろう偽善、上品ぶって見て見ぬふりは、それらの人々の処世の態度なのだから。しかしローレンスが性について語るとき・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・芸術至上主義ととなりあわせて極めて卑俗な楽壇世渡り、社交性が、芸術家に必要な社会性とすりかえられて並んでいます。俳優の生活は旧套の中から既に舞台芸術家として、新しい生活方法に入っている前進座のような実例がありますが、音楽家には、ここで俳優と・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・金と女というものは現代の社会でもっとも卑俗な欲望の対象であり、また社会矛盾の表現である。 市民的なモラルの基準になるこういうことさえも、私たちは本当に純潔な階級活動家としてまじめに理性的にとりあげていかねばならない。 共産党は外の政・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
出典:青空文庫