・・・それにバターと、南京袋の臭いがまざった。 調理台で、牛蒡を切っていた吉永が、南京袋の前掛けをかけたまま入口へやって来た。 武石は、ぺーチカに白樺の薪を放りこんでいた。ぺーチカの中で、白樺の皮が、火にパチパチはぜった。彼も入口へやって・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・そこには、獣油や、南京袋の臭いのような毛唐の体臭が残っていた。栗本は、強く、扉を突きのけて這入って行った。「やっぱし、まっさきに露助を突っからかしただけあるよ。」 うしろの方で誰れかが囁いた。栗本は自分が銃剣でロシア人を突きさしたこ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 吉田は、南京袋のような臭気を持っている若者にねじ伏せられて、息が止まりそうだった。 大きな眼に、すごい輝やきを持っている頑丈な老人が二人を取りおさえた者達に張りのある強い声で何か命令するように云った。吉田の上に乗りかぶさっていた若・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・縄でしばった南京袋の前だれをあてて、直径五寸もある大きな孟宗竹の根を両足の親指でふんまえて、桶屋がつかうせんという、左右に把手のついた刃物でけずっていた。ガリ、ガリ、ガリッ……。金ぞくのようにかたい竹のふしは、ときどきせんをはねかえしてから・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 一太は立ちどまって、善さんが南京袋をかついで来ては荷車に積むのや、モーターで動いている杵を眺めた。「今日はどこだい」「池の端」「ふーむ……やっこらせ! と、……洒落てやがんな、綺麗な姐さんがうんといたろう?」「ああいた・・・ 宮本百合子 「一太と母」
出典:青空文庫