・・・ 大仁の町を過ぎて、三福、田京、守木、宗光寺畷、南条――といえば北条の話が出た。……四日町を抜けて、それから小四郎の江間、長塚を横ぎって、口野、すなわち海岸へ出るのが順路であった。…… うの花にはまだ早い、山田小田の紫雲英、残の菜の・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ 水晶のいはほに蔦の錦かな 南条より横にはいれば村社の祭礼なりとて家ごとに行燈を掛け発句地口など様々に書き散らす。若人はたすきりりしくあやどりて踊り屋台を引けば上にはまだうら若き里のおとめの舞いつ踊りつ扇などひらめかす手の黒きは・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・四男勝千代は家臣南条大膳の養子になっている。女子は二人ある。長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長の妻になる人である。弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫