・・・そして対象は単一的であって並列的ではない。美的狩猟はならべ描くことによって情緒をますのだ。 結婚前の青年、特に学窓にある青年にとって、恋愛とはまず精神的思慕であり、生命的憧憬でなければならぬ。美しい娘の中に自分の衷なる精神の花を皆投げこ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・私は愛という単一神を信じたく内心つとめていたのであるが、それでもお医者の善玉悪玉の説を聞くと、うっとうしい胸のうちが、一味爽涼を覚えるのだ。たとえば、宵の私の訪問をもてなすのに、ただちに奥さんにビールを命ずるお医者自身は善玉であり、今宵はビ・・・ 太宰治 「満願」
・・・第一回の講義の始めに、人間本位の立場から物理学を解放すべきことや物理的世界像の単一性などに関する先生の哲学の一とくさりを聞かせた。綺麗に禿げ上がった広い額が眼について離れなかった。黒板へ書いている数式が間違ったりすると学生が靴底でしゃりしゃ・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・光などでも単一な球面波のごときものは実現し難いものであって、実際の光はやはり複雑多様な要素の集団であって光の強度というような概念も多くはただ平均的の意味を有つのみである。 しかし人間が超顕微鏡的の眼を有っていない以上は分子や電子を直接見・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・る某帝国の法律が恋愛と婦人に関する一切の芸術をポルノグラフィイと見なすのも思えば無理もない次第である――議論が思わず岐路へそれた――妾宅の主人たる珍々先生はかくの如くに社会の輿論の極端にも厳格枯淡偏狭単一なるに反して、これはまた極端に、凡そ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・人間の思想、感情の単一なる古代にありて比較的によく天然を写し得たるは易きより入りたる者なるべし。俳句の初めより天然美を発揮したるも偶然にあらず。しかれども複雑なるものも活動せるものも少しくこれを研究せんか、これを描くことあながち難きにあらず・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・そして、数学と全然違うところは、これらの関係がまるで逆になって、+《プラス》のところが-になり、×《タイム》が÷《デバイデッド》となっても、一度真面目に恋愛した人間の心では、決して元の杢阿彌の単一なAならA、BならBには還ることがないと云う・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
人類の祖先たちは、彼らの原始的な生活のもとで、どんなふうに自分たちの発見と智慧とをもちいてきたのだろう。 太古の人類の希望は、幸福に生きたいという単一の強烈な欲求であった。それらの人々は、自分たちに一本の棒の切れはしを・・・ 宮本百合子 「いのちのある智慧」
・・・○総同盟について この間大町さんが、総同盟も単一組合となって、どちらの区別もなくなる、とお話し下すったように思います。総同盟は、自分たちの内部で丈単一組合化をやるので、他の系統の組合と合流した単一化になるのではないようです。従っ・・・ 宮本百合子 「往復帖」
・・・社会的生産に関与する社会労働が基礎になっているから、小学校にしろ、ただ小学校とは云わず単一勤労学校と云う名称だ。 子供は小さいときから社会的勤労・生産・社会主義の建設とはっきり結びついた教育法にのっとって育てられて行く。例えば第一学期は・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫