・・・と云う意味は必ずしも厚顔にと云う意味ではない。 自由思想家 自由思想家の弱点は自由思想家であることである。彼は到底狂信者のように獰猛に戦うことは出来ない。 宿命 宿命は後悔の子かも知れない。――或は後・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・職業的堕落婦人よりは一層厚顔だ。口の先では済まない事をした、申訳がありませんといったが、腹の底では何を思ってるか知れたもんじゃない。良心がまるで曇ってる。」「Yも平気でしたか?」「イヤ、Yは小さくなって悄れ返っていた。アレは誘惑され・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・何となればそうするのがあまり厚顔しいように感じられたからであった。たゞ私はどうかしてこのことだけを配達夫に知らせたいと思った。 此の新聞は午前の四時頃になると配達されるので常に家内のものが眠っているうちに戸の隙間から入れて行くのが例であ・・・ 小川未明 「ある日の午後」
・・・ 花は、この厚顔ましいくもが、せめて花弁だけ、糸でしばりつけないのを、せめてものしあわせと考えていました。そして、くもは、横着者であって、かや、はえがこないときは、根もとの方に隠れて眠っていました。 ある日、きれいなちょうが飛んでき・・・ 小川未明 「くもと草」
・・・しかもあとお茶をすすり、爪楊子を使うとは、若気の至りか、厚顔しいのか、ともあれ色気も何もあったものではなく、Kはプリプリ怒り出して、それが原因でかなり見るべきところのあったその恋も無残に破れてしまったのである。けれども今もなお私は「月ヶ瀬」・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・或いはちゃんと覚えている癖に、成長した社会人特有の厚顔無恥の、謂わば世馴れた心から、けろりと忘れた振りして、平気で嘘を言い、それを取調べる検事も亦、そこのところを見抜いていながら、その追究を大人気ないものとして放棄し、とにかく話の筋が通って・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・その作家の生前に於て、「良風俗」とマッチする作家とは、どんな種類の作家か知っているだろう。 君は、代議士にでも出ればよかった。その厚顔、自己肯定、代議士などにうってつけである。君は、あの「シンガポール陥落」の駄文その中で、木に竹を継いだ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ とにかく、これに関してはやはり『野鳥』の読者の中に知識を求めるのが一番の捷径であろうと思われるので厚顔しくも本誌の余白を汚した次第である。 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・初対面からちと厚顔しいようではあったが自分は生来絵が好きで予てよい不折の絵が別けても好きであったから序があったら何でもよいから一枚呉れまいかと頼んで下さいと云ったら快く引受けてくれたのは嬉しかった。子規も小さい時分から絵画は非常に好きだが自・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・ 日本の新首相が施政方針演説もしないで公務員法案を押しきろうとすることは、古い政治家の厚顔な腹の力かもしれないけれども、アメリカの大統領選挙の生々しい教訓は、日本のわたしたちにも少くない分量の真実を学ばせた。自身の政策さえもたない政党が・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
出典:青空文庫