・・・日本の重大な運命にかかわるとき、上流婦人が、反動的であることさえ人民の発展の阻害であるのに、なおその上、彼らが自分らの無智を知らず、厚顔になりきった社交性につり出されて、男でさえ、まともな暮しをする者は、行かないところである待合で、待合政治・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・金銭をめぐって煮え立ち、金持は無趣味で仰々しい厚顔の放埒に溺れ、金を持たぬものは、持たぬ金を更に失うことを恐れて、偽善的に「中庸」を守る俗人生活にくくりつけられた。オノレ・ド・バルザックはパリの屋根裏から昂然と太い頸をもたげ、南方フランス人・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・家として、あらゆるアメリカの悲劇を克服しようとしてたたかうようなたちの青年は描かないで、クライドのように富は富として常識に魅せられ、享楽は享楽として魅せられて行って、しかも、素手でそれを捕えてゆくほど厚顔でもあり得ないアメリカの普通人の悲劇・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・生ぬるい、厚顔な町人根性に反撥し、それを軽蔑している。この人々にゴーリキイはつよく惹きつけられた。そして「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望」に捕えられた。 ゴーリキイは屡々泥棒のバシュキンやけいず買いのトルーソフなどとカザンカ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・と言い切っているということは、何という厚顔な責任回避であろう。おのずから、殖える人数が楽しく生きて行けるだけの衣料と食物と燃料とが湧き出して来る家庭というような、魔法の小屋は、今日、日本のどこにもあり得ない。魔法の小屋でない「家庭」へ表口か・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫