・・・ 芸術でも哲学でも宗教でも、それが人間の人間としての顕在的実践的な活動の原動力としてはたらくときにはじめて現実的の意義があり価値があるのではないかと思うが、そういう意味から言えば自分にとってはマーブルの卓上におかれた一杯のコーヒーは自分・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・この事実から考えると最初に出るあの多量の水蒸気は主として火口の表層に含まれていた水から生じたもので、爆発の原動力をなしたと思われる深層からのガスは案外水分の少ないものではないかという疑いが起こった。しかしこれはもっとよく研究してみなければほ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・それにもかかわらず、うかうかとそういうものに頼って脚下の安全なものを棄てようとする、それと同じ心理が、正しく地震や津浪の災害を招致する、というよりはむしろ、地震や津浪から災害を製造する原動力になるのである。 津浪の恐れのあるのは三陸沿岸・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・このように恐ろしい地殻活動の現象はしかし過去において日本の複雑な景観の美を造り上げる原動力となった大規模の地変のかすかな余韻であることを考えると、われわれは現在の大地のおりおりの動揺を特別な目で見直すこともできはしないかと思われる。 同・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・をまざまざと描き上げさせる原動力になったものらしい。その想像の画面に現われた四方太の住み家の玄関の前には一面に白い霜柱が立っている。きれいに片付いた六畳ぐらいの居間の小さな火鉢の前に寒そうな顔色をして端然と正座しているのである。 文章会・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・これを弾ずる原動力は句の「はたらき」であり「勢い」でなければならない。 発句は物を取り合わすればできる。それをよく取り合わせるのが上手というものである。しかしただむやみに二つも三つも取り集めてできるというのではない。黄金を打ち延べたよう・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・あの一見枯死しているような豆のさやの中に、それほどの大きな原動力が潜んでいようとはちょっと予想しないことであった。この一夕の偶然の観察が動機となってだんだんこの藤豆のはじける機巧を研究してみると、実に驚くべき事実が続々と発見されるのである。・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・世間に起こっているいろいろな出来事でも、その事がらの表面に現われている現象よりも、その現象の底にある原動力のほうにすぐに目をつけていた。他人の言行でもそれを通して直接に腹の中を見透していた。そういう敏感さは子供の時分からすでにあったのが、病・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・その根性が取も直さず活力節約の工夫となって開化なるものの一大原動力を構成するのであります。 かく消極的に活力を節約しようとする奮闘に対して一方ではまた積極的に活力を任意随所に消耗しようという精神がまた開化の一半を組み立てている。その発現・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・それは世界形成の原動力である。共栄圏と云うものであっても、その中心となる民族が、国際連盟に於ての如く、抽象的に選出せられるのでなく、歴史的に形成せられるのでなければならない。斯くして真の共栄圏と云うものが成立するのである。併し自己自身の中に・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
出典:青空文庫