・・・私たちは原町まで、五時間ほど立ったままだった。 ハハイヨイヨワルシ」ダザイイツコクモハヤクオイデマツ」ナカバタ 北さんは、そんな電報を私に見せた。一足さきに故郷へ帰っていた中畑さんから、けさ北さんの許に来た電報である。 翌朝八時・・・ 太宰治 「故郷」
・・・それがそうだと聞かされると同時に三年前の赤ん坊の顔と東京の原町の生活が実に電光のように脳裏にひらめいたのであった。 この絵に対する今の自分の心持ちがやはりいくらかこれに似ている。はじめ見た瞬間にはアイデンチファイすることのできなかった昔・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
一八九九年二月十三日。東京市小石川区原町で生れた。父中條精一郎母葭江。生後十ヵ月から満三歳まで両親と札幌で育った。一九〇五年東京市本郷区駒本尋常高等小学校へ入学。父はイギリスへ行っていた。小さ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 私が生れた頃の家は小石川の原町にあって、今に骨ばなれがしやがるゾ! と魚やの若い衆に罵倒される程倹約な暮しをしていたそうだ。裏にジャガ薯畑があって、そこからとれるジャガ薯ばっかりおかずにしていたと、笑って話したことがある。 は・・・ 宮本百合子 「母」
出典:青空文庫