・・・ 御厨子の前は、縦に二十間がほど、五壇に組んで、紅の袴、白衣の官女、烏帽子、素袍の五人囃子のないばかり、きらびやかなる調度を、黒棚よりして、膳部、轅の車まで、金高蒔絵、青貝を鏤めて隙間なく並べた雛壇に較べて可い。ただ緋毛氈のかわりに、敷・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・屏風、衝立、御厨子、調度、皆驚くべき奢侈のものばかりであった。床の軸は大きな傅彩の唐絵であって、脇棚にはもとより能くは分らぬが、いずれ唐物と思われる小さな貴げなものなどが飾られて居り、其の最も低い棚には大きな美しい軸盆様のものが横たえられて・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・奥の間から祭壇を持って来て床の中央へ三壇にすえ、神棚から御厨子を下ろし塵を清めて一番高い処へ安置し、御扉をあけて前へ神鏡を立てる。左右にはゆうを掛けた榊台一対。次の壇へ御洗米と塩とを純白な皿へ盛ったのが御焼物の鯛をはさんで正しく並べられる。・・・ 寺田寅彦 「祭」
・・・大声にいへるに驚きて、うちよりししじもの膝折ふせながらはひいでぬ、すこし広き所に入りてみれば壁落かかり障子はやぶれ畳はきれ雨もるばかりなれども、机に千文八百ふみうづたかくのせて人丸の御像などもあやしき厨子に入りてあり、おのれきものぬぎかへて・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・安寿は守本尊の地蔵様を大切におし。厨子王はお父うさまの下さった護り刀を大切におし。どうぞ二人が離れぬように」安寿は姉娘、厨子王は弟の名である。 子供はただ「お母あさま、お母あさま」と呼ぶばかりである。 舟と舟とは次第に遠ざかる。後ろ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫